【地域創生と観光ビジネス32】最上川トークライブ・クルーズで義経ロマンと恋に効くお社 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 「トークライブ・クルーズ」と聞くとおしゃれな印象を抱くかもしれない。「最上川舟下り義経ロマン観光」代表で船頭作家として知られる芳賀由也さんはこれまでの舟運ガイドをトークライブ・クルーズに言い換えて、若年世代の取り込みに経営のかじを切った。

 義経や芭蕉になじみが薄い若い人たちを、どうやって引きつけるか。刺さる言葉を探すなかで、東京ディズニーランドのジャングルクルーズやスプラッシュマウンテンに着想を得た。船上でのトークは約60分と長丁場。途中、山形民謡『最上川舟唄』など、自慢ののどで名曲も披露する。イッツ・ア・スモールワールドならぬ「最上峡ワールド」が船上に広がり、乗船客はミッキーマウスやミニーマウスになりきってはしゃいでいる。船上ランチ付きでは、地元産の十割そばや芋煮汁などを提供。立ち寄り場所での「わき水コーヒー」も芳賀さんのアイデアだ。

 芳賀さんと知り合ったのは、20年前、日本旅行作家協会でのこと。当時、同会の会長だった兼高かおるさんや、漫画「ベルサイユのばら」原作者の池田理代子さんと親交があり、彼に誘われて池田さんのオペラのリサイタルをご一緒させていただいたこともある。

 若者のクルマ離れや海外旅行離れが深刻化した平成の時代に、「若い人が購入しないのは、そうした世代に向けたモノづくりをしてこなかったからだ」と辛らつな意見を、とある記事で筆者が述べたことに芳賀さんは刺激を受けたと語る。その言葉が今回のトークライブ・クルーズ発案の根底にあるそうだ。

 時間とお金に余裕がある高齢者層ばかりを対象に、商品造成に励んだ時代は終わった。コロナで一気にマーケットから姿を消したことも一因する。観光ビジネスでも若い世代を狙う向きが、ポストコロナで鮮明になった。

 山形新幹線の終点・新庄駅から陸羽西線に乗り換えて約30分。「縁結びステーション」の愛称で知られるJR高屋駅近くに同社「義経丸」の乗船受付所がある。近くには、兼高かおるさんの記念看板が設けられ、企画展も開催中だ。なぜ、縁結びなのかと言えば、恋愛成就にご利益があるとされる「仙人堂」が川の対岸にあるから。船で渡って上陸しないと参拝できないお社で、パワースポットにもなっている。そこで「縁結びライン」という別名がつけられた。多くの若者が、恋に効くお守りを求めにやってくる。

 芳賀さんは山形・酒田のFM局「ハーバーラジオ 酒田」で番組「最上川・仙人堂通信」のパーソナリティも務め、素朴な語り口がリスナーの心をつかむ。話題は文学から歴史まで多岐にわたり、地域の観光振興に一役買っている。ポッドキャストでも聞くことができるのでぜひ聞いてみるとよい。

 また、最近では芳賀さん自らのプロフィールを乗船客に語るようになった。匿名での口コミが跋扈(ばっこ)する時代、あえて経歴をさらすことで、さらなる信頼感が生まれる。

 北海道・知床沖の観光船沈没事故や京都・保津川下りでの転覆事故など近ごろは観光ビジネスの水難事故が増えている。点検整備の見直しも進んできたが、相次ぐ事故で客離れが気になるところだ。かじを取る人や運航会社代表が実名で顔出しすることで安心の提供にもつながるものと考える。

 (淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)   

 
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