激動の2023年が間もなく暮れようとしている。コロナ明けの観光再始動で、ただただ忙しいの一語だったかもしれない。この1年を振り返ってみたい。
明けない夜はない―。疫病退散で、3年半ぶりにマスクが外れた今夏。日常をようやく取り戻すことができた私たちは、まさに時代の生き証人である。
だが、深刻な人手不足にゼロゼロ融資の返済開始、不正受給事案など、大きく痛手を負っての再出発だった。物価高騰や気候変動、さらにはウクライナ戦争やガザ人道危機など不安は尽きない。
北朝鮮の軍事偵察衛星が沖縄県の上空を通過した11月21日、私は羽田発那覇行きのJAL最終便に乗り合わせた。那覇空港に着陸した瞬間に機内では、乗客が持つスマートフォンから一斉にJアラートが鳴り響いた。その後、30分以上もの間、機内待機を余儀なくされたのである。空港職員が皆、屋内退避したことで、乗客の降機誘導ができなくなったのだ。ホテルにたどり着いたのは深夜零時過ぎのこと。どっと疲れが出た。
中国では今年、習近平国家主席が異例の3期目に突入した。4期続投の可能性も高まりつつあるという。台湾侵攻のXデーが現実味を帯びるのだとしたら、世の中は観光どころではなくなるだろう。それが今の私たちを取り巻く環境である。
インバウンドビジネスへの期待感はコロナ禍前より高まっている。人口減少が進み、賃金も上がらない日本。外国人に労働力や消費力を頼らざるを得ないときが訪れている。すでに観光産業の現場では、人材の多様化が進み、観光消費額の回復もインバウンドで顕著にみられた。
気になるのが消費税の取り扱いである。消費税法では、インバウンドが土産品として国外に持ち出すことを前提に、1回50万円までの免税販売を認めてきた。だが、それが転売悪用の温床となっていたのである。今後、抜本的な見直しがなされるだろうが、野放しにした期間が長すぎた。
また、秋から始まったインボイス制度の導入などを機に、国民の税負担について考えさせられた人もいただろう。不動産取引における外国人規制を声高に訴えるも、なかなか規制は進まない。安売り大国ニッポンを早くに脱して、経済を好循環させていかなければならないというのに、これでは誰もが道半ばで疲れ果ててしまう。
わが国が観光立国をめざすなか、手本にしたいのがハワイ州である。観光産業従事者が多い土地柄ならではの二重料率「カマアイナ・レート」や、不動産法における非居住者規制、白タクへの厳しい罰則規定など、30年以上も前から導入された。
近年では民泊需要の高まりから、一般住居との線引きゾーニングも始まっている。
そもそも、なぜハワイは私たちを魅了するのか。筆者も共著者に名を連ねる新刊「ハワイ読本―日本人がハワイを好きな理由―」(山口一美著・創成社)を読めば、きっとその答えが分かるだろう。固有の文化や精神はアロハシャツやフラ、サーフィン、ハワイアン・パンケーキにさえも表れる。ロコの誇りが根底にある。
来る年が明るく平和な1年となりますよう祈念して筆を置く。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)