【地域創生と観光ビジネス43】今年の推しは秘湯! 尾瀬かたしな水芭蕉乃湯「梅田屋旅館」 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 群馬・片品村で「尾瀬かたしな未来構想委員会」が開催された。村の未来を地域一体で創り上げようと、梅澤志洋村長自らが本部長を務める。委員には高校生をはじめ地域住民や事業者らが名を連ね、村の未来像を議論する。

 未熟な座長の私をいつも助けてくれるのが、観光分野を得意とするコンサルタントの宮口直人氏である。宮口氏の声かけで、コピーライターで作家の川上徹也さんを講師にお招きし、短文で魅力を伝える極意やストーリーブランディングを学んだ。物語性を持たせることは、ヒット商品を生む第一歩でもある。

 その後の懇親会は、村役場近くの尾瀬かまた宿温泉・水芭蕉乃湯「梅田屋旅館」で開催された。尾瀬の玄関口である片品村の一軒宿で、「日本秘湯を守る会」の会員宿でも知られる。昭和のハイキングやバブル期のスキーブームで、県内外に多くのファンを獲得した湯宿である。

 遠く山々は雪化粧している。マイカーは冬タイヤに履き替えたので安心だ。懇親会のあとは、そのまま泊まって、ゆっくり温泉三昧することにした。美人蕉(ひめばしょう)の湯は半円形で木の香りが漂う。野趣あふれる露天風呂にも癒やされた。

 1975年発足の日本秘湯を守る会は、今はなき「朝日旅行」の前身「朝日旅行会」の創業者・岩木一二三氏が「秘湯」という造語を生んだことに始まる。同社の会員誌「旅なかま」に、かつて連載をしていた縁もあり、同会を応援したいと筆者は考えている。

 これまでも檜枝岐(ひのえまた)温泉の「旅館ひのえまた」や群馬の「法師温泉 長寿館」などを訪ね歩いた。どれも後世に遺すべき、貴重な湯宿ばかり。スタンプをもらうには、同会ホームページからの予約に限る。一般OTAとは料金も異なるので二の足を踏んでいたが、秘湯の推し活のために今年はスタンプ帳に挑戦するのが目標だ。

 翌朝、梅田屋旅館の女将・星野由紀枝さんと、しばし会話してから宿をあとにした。落語家の立川談志さん(故人)や各界の著名人らが頻繁に利用してきた。夫に早くに先立たれてからは、女手一つで守り抜いてきた。跡継ぎがいらして、さぞ心強いことだろう。

 筆者が同会に関心を得たのは、福島・微湯(ぬるゆ)温泉「旅館二階堂」を訪ねてからだ。NPO法人交流・暮らしネットの顧問である二階堂晋一さんのご実家で、活動仲間でひとっ風呂浴びに立ち寄ったのがきっかけだ。 

 長兄の故・二階堂匡一朗氏がつづった「吾妻山回想譜 先人に捧ぐる鎮魂歌」を読めば、郷土への熱い思いが伝わる。

 とはいえ、山深い秘湯宿の経営は通年営業では採算がとりづらい。建物も老朽化しているため、営業継続が厳しいとうかがった。

 近代的な宿もよいが、ひなびた雰囲気の秘湯宿を地域が守る取り組みが、今、求められている。後継ぎがいないのであれば公的機関などが買い取って存続させるといった議論を始めるときにある。

 さて、先述した梅澤村長は、委員会の冒頭に「とにかく観光で来てほしい」と語った。オーバーツーリズム対策で窮する自治体がある一方、さらなる来訪を期待する地域もある。SNSや口コミ効果で、あれよという間に急増する可能性もある。どのような戦略をとるか、今が知恵の絞りどきだ。

 (淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)  

 
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