【地域創生と観光ビジネス44】消えた「輪島の朝市」能登半島地震からの復興に全力を尽くす 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 元日の夕暮れどきを突然、襲った「令和6年能登半島地震」。正月祝いのまどろみを一瞬でかき消すかのように、緊急地震速報がスマホから鳴り響いた。東京のわが家も長く、大きく揺れた。

 スマホ画面には、「震源は能登半島沖」とある。慌ててテレビのスイッチをつけるとNHKの女性アナウンサーが、「すぐに逃げること」「テレビは消さないですぐ逃げる!」「東日本大震災を思い出してください」と絶叫していた。その緊迫感が13年前を思い起こさせた。筆者は、岩手・釜石の祖父ら親族を、津波で亡くしている。

 一夜明けると、目を覆いたくなるような無残な光景がニュース画面に次々と映し出された。倒壊した輪島塗のビル、焼け野原となった朝市通り周辺の様子には言葉を失った。曹洞宗大本山「總持寺」では初詣の参拝客が被災された。あまりにも気の毒で残酷だ。

 「輪島の朝市」を最後に訪ねたのは2年半前のこと。科研費の調査で、のと里山海道を北上して志賀原子力発電所のPA拠点周辺を視察した。その夜は「ロイヤルホテル能登」に泊まり、足を延ばして輪島を訪ねた。民芸風の食事処「まだら館」で「あわび茶漬」を食べてから、コロナ禍で閑散とした街をあとにした。     
 
 「日本三大朝市」として知られる輪島の朝市の歴史をひもとくと約1300年前にさかのぼる。江戸時代、北前船が行き交うようになると、さらに規模を拡大した。最もにぎやかだったのはバブル期だったろう。その当時、添乗業務で幾度も訪ねた。和倉温泉に泊まり、大型バスで市場へと向かう。早朝からわれ先にと、皆が海産物ショッピングに興じた。

 ちょうど1年前の冬、加賀屋ホールディングスの教育担当顧問・真崎昌久さんと、JR金沢駅前の「金沢茶屋」で会食をした。その真崎さんに、昨夏、学生インターンシップで教え子が世話になったので、今年は御礼を兼ねて仲間を伴い和倉温泉「加賀屋」に泊まりに行く予定でいた。

 年末年始という一番の繁忙期。もしや現地で被災しているのでは、と心配で連絡をとったところ、案の定、社員の皆さんと手分けして被災対応する最中だった。

 全館満室だったにも関わらず、事故なく宿泊客全員が帰宅の途につけたことは、奇跡と言っても過言ではない。

 奇跡といえば翌1月2日、日本航空機が羽田滑走路で衝突炎上した事故も衝撃だった。わずか18分間で乗客乗員の全員が無事脱出できたという。誘導にあたられた乗務員の皆さまには、心から敬意を払いたい。衝突した海上保安庁の航空機が、被災地へ救援物資を運ぶための出動時であったことにも胸が痛んだ。

 新たな年の幕開けに超越的な事象と不幸が重なり、考えさせられた。きっと啓示がある。加賀屋と日本航空に共通するスタッフの「お客さまファースト」の精神や、いざというときの日々の訓練が、災いを祓(はら)った。教訓にしたい。

 輪島の朝市は、明治時代の終わりにも大火に遭ったと伝わる。これから多くの時間がかかろうとも、復興に向けて手をたずさえ、力を尽くしてまいりたい。

 このたびの能登半島地震、航空機事故により被災されました皆さまには心よりお見舞い申し上げます。

 (淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)  

 
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