【地域創生と観光ビジネス48】雪質日本一の名寄 スノーモービルで「パウダースノーサファリ」を感動体験 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 旭川駅から1両列車の名寄行き宗谷本線に揺られて1時間強。窓外は一面の銀世界だ。幾度、読んでも泣けた三浦綾子の小説「塩狩峠」を思い出す。2月の名寄は氷点下20度というので、この日のために新調したスキーウエアを着込んで乗車した。

 名寄駅で出迎えてくれたのは、「なよろ観光まちづくり協会」に勤める元・教え子の勝又侑乃(ゆきの)さんとその家族。同協会が企画、主催する「パウダースノーサファリ」に参加するのが今回、一番の目的だ。それが、想像を絶する超・感動体験だった。

 向かった先は「名寄ピヤシリスキー場」。誰もが知るオリンピアンたちのスキージャンプの練習場でもある。九度山(くどさん)の南斜面のゲレンデには、陸上自衛隊名寄駐屯地の隊員たちが大勢で、スキー訓練をしていた。名寄は「雪質日本一」をうたっている。

 まずは、「レストランあかげら」で腹ごしらえ。「ニコジンがおススメですよ」と勝又さんから言われて「煮込みジンギスカン定食」を注文した。名寄はジンギスカン発祥の地で、もち米の生産量日本一。羊肉をタレでぐつぐつ煮込んだ鍋には、餅に野菜、うどんが入る。最高の味だった。

 身体の芯まで暖まったところで、観光振興課長の山田裕子さんと地域おこし協力隊で案内役の森和季さんが合流してくれた。ゴーグル付きヘルメットを借りて、いざ出陣。仲間が多いと心強い。

 目指すは標高987メートルのピヤシリ山。ずらっと並んだキャタピラ付きスノーモービルは、エンジン排気量が800ccと、馬力が違う。軽自動車が660cc以下だから、そのド迫力たるや想像に難くない。

 ダイヤモンドダストが光る神秘的な樹氷の森を、時速50キロで疾走する。自らがハンドルを握るわけではない。「ピヤシリスノーモービル協会」所属のプロのドライバーが、立ち姿で運転してくれる。自分は振り落とされないよう、ただ必死でハンドル中央のバーにしがみつくのみ。まさに真冬のアドベンチャーで、運がよければ自然現象サンピラーをみることができる。

 山頂小屋付近からスノーシューを履いて、ピヤシリ山の最高地点まで歩いて登った。雪をまとった木々の塊が連なるさまに、「これがうわさのスノーモンスターです」と森さん。極寒ならではの特異な景観は、畏(おそ)れにも近いインスピレーションを感じさせる。

 ストーブにまきをくべた山頂小屋で、暖をとって休憩した。もち米を焙煎した温かいお茶に、焼きマシュマロのサプライズも。復路は、写真を撮りながら下山した。

 同協会の畑中覚是(さだゆき)事務局長によると、かなり先まで予約が埋まっているそうだ。催行には事前に圧雪が必要で、手間がかかる。インバウンドも増加傾向で、手ごたえを感じていると語る。目下、季節平準化を目的に、夏のカヌーにも注力しようとしている。

 あと1年余月で還暦を迎える。バブル期の若い頃には年間20回以上もスキー場に足を運んだが、もうあのスピードで雪原を滑ることはできないと諦めていた。それがスキー滑降と同じ目線や速度で白銀を疾走できた爽快感は、格別というよりほかない。感極まってゴーグルの下はプチ涙。“アラ還”にも売れる商品だ。

 (淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子) 

 
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