【地域創生と観光ビジネス51】「四国こんぴら歌舞伎大芝居」 近兼孝休会長との約束を果たす 淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子


 令和の大改修を終えた香川県琴平町の金丸座(旧金毘羅大芝居)で、「第37回 四国こんぴら歌舞伎大芝居」を鑑賞した。コロナの影響で中断したことから、5年ぶりの開催である。

 板を渡しただけの簡素な座椅子に座布団の芝居小屋は、江戸時代さながらの風情だ。花道脇の平場(ひらば)の席はぎゅうぎゅうで、そのなかを歌舞伎役者が縦横無尽に立ち回る。十代目松本幸四郎さんや中村鴈治郎さん、八代目市川染五郎さんなど豪華な顔ぶれで、役者さんと観客との距離の近さにも興奮した。ほとばしる汗までもが、肉眼でよく見えるのである。

 桜吹雪が座席にも舞う。あっと驚く仕掛けも見ごとで、演目「羽衣(はごろも)」では、天女を演じた中村雀右衛門さんが宙乗りになって、天に昇る姿を演じて幕を閉じた。観客は、やんややんやの大騒ぎ。貴重な伝統文化と江戸の芝居小屋が今世、この讃岐に受け継がれていることは、「奇跡」と言っても過言ではない。

 ちょうど1年前の春、知人の紹介で琴平グランドホテル・近兼孝休会長に都内某所でお会いした。業界人なら誰もがご存じの、当地まちおこしの立役者である。コロナ禍の暗いトンネルを今まさに、抜けようとしているときだった。

 そのときいただいたご著書「夢の実現に向かって こんぴらさんと共に歩んだ 旅館業人生」(保育社)には、ご自身の半生とともに琴平での歌舞伎興行という夢の実現にかけた熱い想いがつづられていた。これは奇跡ではなく「努力」であると知らされた。

 「観光と文化は表裏一体」という近兼氏の高い志が、読後の頭から離れない。そして約束した。「歌舞伎再開には駆けつけます」と。

 今回、約束を果たすべく、昼夜2部ともに堪能しようと奮発して、「湯元こんぴら温泉華の湯 紅梅亭」を歌舞伎チケット付きで予約、購入したのである。

 宿に着くと近兼会長が笑顔で出迎えてくれた。

 紅梅亭は歌舞伎ギャラリーを併設した五つ星の宿で、庭園風呂をはじめ趣きある風呂めぐりも楽しめる。夕食のあとは、VIPラウンジ「暫(しばらく)」で旅仲間と寛いだ。

 さて、金丸座での幕間はトイレが長蛇の列になる。近兼会長が気を利かしてくれて、わずかな時間で「琴平グランドホテル 桜の抄」へと案内してくれた。こうした目配り、気配りがある方だからこそ、歌舞伎役者やその関係者は安心して琴平に足を運んでくれるのだろう。

 ちなみに金丸座の前身・旧金毘羅大芝居は、現存する日本最古の芝居小屋で、天保6(1835)年に造られた。鳴門大橋が開通した1985年、今のスタイルの金丸座での歌舞伎興行が幕明けたのである。

 以降、大鳴門橋や瀬戸大橋が開通したことが追い風となり、たくさんの人たちが本四を往来するようになった。四国こんぴら歌舞伎大芝居は、当地の春の風物詩になり、地域ブランドの醸成を現実のものとしたのである。

 東銀座の歌舞伎座や京都・南座では味わうことができない感動。江戸時代にタイムスリップしたかのような錯覚が、歌舞伎ファンを魅了する。

 次回は、この「桜の抄」に泊まって金丸座に足を運ぶつもりだ。

(淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)

 
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