岩手町・佐々木光司町長のご縁で5年前、都内の銀座クルーズ系列レストランで催された「いわてまち大縁会」に出席したときのこと。初対面で名刺交換した日本ハウス・ホテル&リゾートの堺忍さんとは、観光つながりから意気投合し、コロナ禍でもLINEで互いに励ましあってきた。その堺さんが現場応援によく入るという岩手・鶯宿(おうしゅく)温泉の「ホテル森の風鶯宿」へ今夏、家族連れで泊まりにいった。
盛岡駅から無料シャトルバスで約40分。“盛岡の奥座敷”といわれる繋(つなぎ)温泉よりも、さらに奥へと分け入った雫石町に、鶯宿温泉は位置する。その昔、ウグイスが痛んだ足を湯に浸らせ治していたのをキコリがみつけたのが、鶯宿の名の由来だとか。かわいらしい。
東京ドーム13個分の広大な敷地にそびえる同ホテルは、全客室数が221室、大小宴会場にレストラン、和洋大浴場やお祭り広場などを有する。ロビーは神殿のような吹き抜けで、館内にはコイが泳ぐ池がある。客室からは岩手山が望めた。何より岩手出身の老父が喜んだ。
ホテル森の風鶯宿は、バブル期の仕込みで95年に開業した。かつて併設していた巨大プール「けんじワールド」は10年前に閉館したが、跡地には本格的なガーデニング公園「フラワー&ガーデン森の風」が広がる。訪問したのがちょうど旧盆の時期で、打ち上げ花火や昆虫フェスタが開催され、子連れが多かった。ペット同伴でも泊まれる宿で、緑も豊富で散歩にもよい。
今回、「一休」経由で予約したが、ダイヤモンド会員特典で家族風呂をサービスいただき、得した気分。また、同社は2018年から会員権リゾートクラブ事業「みやび倶楽部」をスタートさせ、現在は第3次募集中とのこと。期間10年の預託金・入会金制で、体験宿泊も行っている。鶯宿はもちろん箱根や那須、立山、宇都宮の直営施設のほか、日本リゾートクラブ協会提携ホテル23カ所も優待価格で泊まることができる。このように、旅行会社にOTA、はたまた会員利用と、予約流入経路はさまざまだ。
今回の宿泊で感心したのが、献立の豊富さと配膳スタッフの接遇のよさだった。夕食の創作和食で前菜の小皿5種は、「酸味、塩味、甘味、苦味、旨(うま)味の順に食してください」とスタッフから説明があった。それがなければきっと、好きなアワビ(苦味)から食べていただろう。朝食には小岩井牛乳や岩泉ヨーグルト、県産米の「銀河のしずく」と、岩手産が並んだ。以前から蒐集(しゅうしゅう)している有田焼「華山萬右衛門」の器も使われていて、おもわずうれしくなった。
この鶯宿の湯は江戸時代、盛岡藩の9代目藩主・南部利雄(としかつ)が持病の痔を治すため、不来方城まで運ばせたという逸話がある。今年5月21日付の朝日新聞によると、約72リットル分、四斗樽(だる)12個を馬に運ばせたというから驚きだ。温泉効果だろう。痔が治ったという記述が「もりおか歴史文化館」の史料のなかにあるそうだ。
今回の旅は、羽田から秋田空港に入って秋田市内に1泊し、秋田新幹線で盛岡へ鶯宿温泉を往復して、3日目、盛岡から帰京した。帰京の翌日は台風7号の影響で、軒並み新幹線は運休、航空便は欠航で、危機一髪だった。
(淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)