【地域創生と観光ビジネス61】その名も「ろうかんどう」岩手・住田町でアドベンチャー洞窟体験 淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子


 真夏でも冷や汗。スリル満点のアドベンチャー洞窟体験をお望みなら、岩手・住田町の「滝観洞」を目指すとよい。1977年公開のホラー映画「八つ墓村」のロケ地にもなった。読み方は「ろうかんどう」。フリガナがなければ、多くの人は読めないだろう。

 今夏の淑徳大学ゼミ合宿は、住田・釜石・大槌の震災からの観光復興をテーマに、この滝観洞からスタートした。集合場所はJR釜石線の無人駅「上有住(かみありす)駅」。首都圏から早朝始発で5時間超の長旅に、休む間もなく、オレンジ色のヘルメットとジャンパーに身を包んだ。洞窟内は人ひとりがやっと通れる狭さで薄暗い。片道全長880メートルは相互通行のため、譲り合い、ときには這(は)うようにして前進した。閉所恐怖症の人にはつらい。眼下には冷たそうな地下水が流れているから足がすくむ。

 この緊張感が一気に解けたのが、最奥部に広がる「天の岩戸の滝」にたどり着いた瞬間である。総落差29メートルの巨大滝が、大理石の裂け目からド迫力で流れ落ちる。蒼(あお)い光に照らされて、神秘的な空間が広がっていた。

 往きよりも帰りが気も緩んで転倒しやすいらしい。慎重を期して洞窟から這い出ると、外の光がまぶしかった。探検のあとは腹ごしらえ。滝観洞観光センターは今春、リニューアルオープンしたばかりで真新しい。崖上の小屋から引かれた個々のパイプを伝って、手元のそばせいろにバサッとそばが流れてくる「滝流しそば」がユニークだ。

 洞窟内を案内してくれた住田観光開発の千葉孝文さんは、その他の町内プログラムのほぼ全行程を同行してくれて、心強かった。

 立派な蔵が建ち並ぶ世田米(せたまい)のまち歩きでは、かつて馬の市が開かれ交通要衝にあったことを学んだ。種山ヶ原では、標高871メートルの物見山を元気にハイキング。「すみた森の案内人」の佐々木慶逸さんが山頂で、学生に1枚の紙を渡した。宮沢賢治の詩を朗読させたのである。若い心に刺さる好演出だ。

 夜の懇親会には住田町の神田謙一町長が駆け付けてくださった。当地自慢の鶏ハラミがおいしい。学生と気さくに交流をはかり、翌日訪問予定の釜石市・小野共市長へは携帯電話にホットラインと、その心遣いがうれしかった。

 住田町は釜石や遠野など周辺6市に隣接する。復興支援道路には滝観洞ICが整備され、アクセスも向上した。人口わずか4600人強の小さな町だが、滝観洞新施設誕生から半年で、入洞者数が1万3千人を超えた。まさに観光マグネット。人々が吸い寄せられているのがわかる。

 旅は続いた。釜石では市長室で震災直後の状況を小野市長が熱量をもって話してくださり、涙ぐむものもいた。「神田町長からの夜中の電話には驚きました」と笑って話されると、学生たちの緊張も解けた。役場裏の避難路を見学して、バスで「鉄の歴史館」や「釜石大観音」を巡り、「三陸花ホテルはまぎく」ではホヤやウニなど海鮮に舌鼓を打った。夜は波打ち際で、持参の花火を楽しんだ。

 帰京後のアンケートでは、滝観洞アドベンチャー体験がダントツ首位で、次いで釜石市長室と大槌・波板海岸での花火や料理が続いた。どれもが大切な“青春の一頁(ページ)”である。

 (淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)   

 
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