東京タワーがそびえる場所にはかつて、鹿鳴館と並ぶ著名な社交場「紅葉館(こうようかん)」があった。福沢諭吉の還暦祝いや渋沢栄一主催の歓迎会が催されるなど、東京大空襲で全焼するまでの64年間、ここで多くの賓客がもてなされた。
昭和33年、高さ333メートルの電波塔として誕生した東京タワーは、半世紀後の東京スカイツリー開業で大きな転機を迎えた。あの、うすら怖かった蝋(ろう)人形館が姿を消したのも、このころだ。
コロナ禍を乗り越えて今年、東京タワーの来場者数は1億9千万人を突破した。その4割は外国人観光客。近ごろは麻布台ヒルズの開業も追い風に、攻めの姿勢を貫いている。
以前は特別展望台と呼ばれていたトップデッキがリニューアルされ、有料ツアーとしてお披露目されたのは2018年のこと。事前体験会では、株式会社TOKYO TOWERの前田伸社長と一緒に撮影したメモリアルフォトが、今も大切に研究室に飾ってある。それが今秋、6年ぶりにツアー・リニューアルすると聞き、再び事前体験会に駆けつけた。
メインデッキと呼ばれる通常の展望台は地上150メートルに位置するが、さらに250メートル上にトップデッキがある。まずはメインデッキへと昇り、そこからトップデッキツアーがスタートするのである。
今回のツアー・リニューアルの注目点は、紅葉館をテーマにした高付加価値でクローズドな展望ツアー「トウキョウ・ダイヤモンドツアー」が誕生したこと。高級感漂う赤を基調にした専用ラウンジからツアーはスタートする。
ツアーには専任アテンダントが待ち時間なしで案内してくれるので、優雅な気分で空中から都内を一望できる趣向だ。人数制限を設けているから、シームレスな時間が過ごせる。
料金もそれなりで、メインデッキまでは大人1人1500円、トップデッキツアーは3500円(事前ウェブ割有)、トウキョウ・ダイヤモンドツアーは7千円で事前にウェブ予約が必要だ。ダイヤモンドツアーが高いのは、アテンダントのほかパフォーマーの演出があり、無料ソフトドリンクや記念写真代が料金に含まれるため。特別感がある。
実は、東京タワー愛が止まらない。なじむ風景の一つ、ザ・プリンス パークタワー東京は、2008年発行の拙著「JTB旅をみがく現場力」(東洋経済新報社)の出版記念パーティーを催した思い出の場所。同ホテルは、東京都の都市計画公園等整備事業によるもので、芝公園一帯が大きく変容したのは記憶に新しい。縁あって今年度、都の都市計画公園十三号地公園特許事業有識者検討委員会の委員に名を連ねている。
港区育ちの息子たちの成人式は、式典をパークタワー東京で、その後は東京タワーで新成人の記念撮影をした。近隣の芝公園野球場は、彼らが所属した少年野球チームの練習場だった。2010年、港区観光振興ビジョン検討委員会で、東京タワーの委員の方と席を並べたことも。「旅博2014」の前夜祭で増上寺を貸切ったときの煌めくタワーと幽玄さを、覚えている読者もいるだろう。
気がつけば、いつも近くに東京タワーがいた。
これこそが「人に歴史あり」。東京タワーよ、永遠に輝いて!
(淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)