埼玉県南部の武蔵野台地に広がる三芳町は、関越道・所沢インター近くのPA「パサール三芳」でも知られる。筆者が勤務する大学の埼玉キャンパスがある町だ。
関東ローム層に覆われた肥沃な台地は江戸時代からサツマイモの生産がさかんで、徳川将軍が好んで食べた。往時の面影が残る「いも街道」は、秋ともなれば子供たちの芋掘り遠足でにぎわう。
この地域で活動するNPO法人「安心安全ネットワークきずな」が採択された観光庁事業「三芳町 世界農業遺産 武蔵野地域(四季の庭園)新発見!ガーデンツーリズム支援事業」を応援しようと、学生や仕事仲間たちと日帰りのファムツアー・モニターツアーに参加、事業協力した。
絶好の秋晴れ。街道沿いのカシやケヤキが色づいていてまぶしい。鶴瀬駅で観光バスに乗り込んで「旧・島田家住宅」を目指した。
皆さんは三富(さんとめ)新田の歴史をご存じだろうか。幕府は当時、今の東京湾一帯から開発の場を武蔵野台地へと移し、大規模な新田開拓を行った。それを指揮したのが、川越藩主の柳沢吉保(よしやす)である。
そうした話をしてくれたのが、スペシャルガイドの野口英明氏だ。JTB渋谷支店長時代から同町に通い、ニューヨーク支店長時代には9・11を経験した。筆者が着任後すぐに誘ってもらった「三富千人くず掃き」では、彼の人脈の広さに驚いた。ただの“落ち葉掃き”かとおもいきや、周辺自治体の首長はじめ、当時のKADOKAWAグループ角川歴彦(つぐひこ)氏や文科省の現役大臣・柴山昌彦氏が集っていたからだ。ここは磁場かと感じた。
さて、名刹(めいさつ)「多福寺」見学のあと、三芳町・林伊佐雄町長の親族が経営するイタリアン農園レストラン「IZAEMON」で楽しくランチを囲んだ。江戸時代に三富に入植した林伊左衛門にちなんだネーミングで、親しみやすい。
このレストランには本格的なピザ窯があり、一帯を「月の原ガーデン」と呼ぶ。町長夫婦が丹精込めた花々やハーブが咲き乱れ、食後の散策にもってこい。隣の「はやし園」でサツマイモ・ショッピングを楽しんだあと、環境配慮型のサステナビリティ経営で注目の石坂産業「三富今昔村」で、野趣あふれる自然に触れた。
盛りだくさんのようだが、ツアーのメインはここから。町役場脇の総合体育館研修室を会場に、林町長と人気キャラクター「猫のダヤン」の作者・池田あきこ先生のトークショーが大成功。筆者は、司会進行役を仰せつかった。
実は池田先生とは、17年ぶりの対面だった。故・兼高かおる氏が団長の日本旅行作家協会・山形研修旅行で泊まった「あつみ温泉 たちばなや」で、2人同室になったのがきっかけ。その後、池田先生はマレーシア・ボルネオの森を守る活動にも力を注いだ。バイクにまたがるりりしいライダー姿からは想像もつかないほど、かわいらしいお声も健在。「わちふぃーるど」のファンタジーな世界に、私たちは一気に吸い込まれた。
ダヤンと仲間たちが今後、三芳町の大きな「宝」になることは間違いない。同町はマレーシアとの交流の歴史も長い。今回のツアーには、マレーシアの女性たちが弾ける笑顔で参加してくれた。アンケートの英和訳は、もちろん野口氏。充実した、よい旅だった。
(淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)
(観光経済新聞12月2日号掲載コラム)