2025年は教育旅行に変革の波が訪れそうだ。
東京・港区で区立中学校の修学旅行先を、これまでの京都・奈良からシンガポールに変えたというニュースは、社会に大きな衝撃を与えた。インバウンドの増加でオーバーツーリズムが深刻な京都では、修学旅行生が混雑した市バスに乗れず、班行動に支障が生じるなど事態は深刻だ。なかには渋滞で貸し切りバスが立ち往生したため、新幹線に乗り遅れそうになったケースもあったという。宿泊施設は全国的に価格が高騰しているから、積立金からなる修学旅行費用も見直しを迫られている。
かつて港区立の中学校に息子たちを通わせた身としては、海外修学旅行の導入をうらやましいとも感じた一方で、格差の助長も気になった。教育や地域の格差は加速度的に広がるばかりの今日にあって、真剣に修学旅行について議論するときを迎えたようだ。
例えば親の判断で、私学をあえて選ばない裕福な家庭もある。息子たちが港区立の小中学校に在籍していたころは、全国にさきがけてモンスターペアレント対策に、区が専任の弁護士を置いたことが話題になった。親もいろいろだ。また、大使館や企業が多い同区では外国パスポートを保有する子どもの数も多い。こうした特異性のなか、海外修学旅行を取り扱う旅行会社は、かなり神経を使うことだろう。
わが国のパスポートの保有率は6人に1人と、コロナ禍前から半減した。日本の将来を背負って立つ子供たちに、今こそ政府が主導して修学旅行の補助を手厚くすべきだ。中学受験や私学偏重は今に始まったことではない。だが、子供たちの体験格差は国力の低下にもつながりかねない。
そのようなことを考えながら公益財団法人日本修学旅行協会の竹内秀一理事長のもとを訪ねた。近ごろの修学旅行の傾向や実態など、取材内容は多岐にわたった。総合的な学習における探究学習の導入で、修学旅行のプログラム構成には、これまで以上に工夫が求められる。ときには息抜きできるようなアクティビティも織り交ぜてやらないと、生徒たちの集中力も落ちる、とコツを語られた。
インタビューのなかで強く印象に残ったのが、平和学習への造詣の深さだった。日本被団協がノーベル平和賞を受賞して、その重要性は増している。世界からも注目される広島・長崎をはじめ特攻隊の知覧やひめゆり学徒隊の沖縄など、修学旅行における平和学習の意義は大きい。
「体験から得られる学びは、生徒たちの成長に欠かすことができない」と竹内氏は語った。長年、教育の現場で培われた高い見識と豊富な経験に裏打ちされた重みがあるコメントだ。
コロナ禍を経て多くの旅行会社はマンパワー不足に陥った。そのため入札辞退も散見されるらしい。海外ランドオペレーターは奪い合いの様相を呈しており、結局は価格に跳ね返って保護者の負担は増すばかりだ。
子供が多い時代は修学旅行もマスツーリズムだった。だが少子化の今こそ、官民あげて変革に注力すべきだ。収益性だけで事業を縮小するのではなく、あえて投資をして変化を促す。
教育旅行は筆者が今年、もっとも注力したいテーマでもある。
(淑徳大学 学長特別補佐・経営学部学部長・教授 千葉千枝子)
(観光経済新聞2025年1月1日号掲載コラム)