「特産品、ないなら作れ!」と、号令をかけるのは、大阪府泉佐野市長の千代松大耕氏だ。「ふるさと納税」で返礼品にギフト券等を利用し、全国から多くの人たちから集金して総務省から除外された泉佐野市が、返礼品競争から一転、自前の返礼品作りに取り組む。
返礼品の御三家は、今もコメ、ニク、カニだといわれ、これらの特産品を持つ九州や北海道の自治体が「ふるさと納税」の上位に名を連ねる。それらを持たない泉佐野市は知恵を出し、2018年度は全国トップの497億円を集めて総務省に批判された。が、泉佐野市は最高裁で「国の除外決定は違法で無効」と判断され、20年7月から「ふるさと納税」制度へ復帰、「特産品作り」に乗り出したのだ。
泉佐野市は、もともとタオル生産日本一、玉ネギ生産日本一だったが、都市化するにつれ、それらの王座は返上するしかなかった。
ただ、タオルは「泉州タオル」としてブランド化して、後発の今治タオルと戦っている。また土壌の関係でか、良質の水ナスを生産することができる希有な地域である。その浅漬けは、全国で売れる人気商品だが季節が限定される。「マツナミ」と呼ばれるキャベツも人気高いが単価が低すぎる。「今井早生」という味のいい玉ネギも特産品だが、多品種と違って日もちが悪い。わずかに「泉州タオル」が返礼品の一角を担うにとどまる。
泉佐野市は、クラウド・ファンディング(CF)で寄付金を募り、その金で特産品作りに取り組む。特産品を生産してくれる企業を支援しようというのだ。熟成肉や地元野菜を用いたピクルス等を生産する会社を応援するのだという。市が企業を誘致して補助金を出して、特産品を作ろうと努力している。新たな雇用も生むだろうし、市の発展に貢献してくれる。市の新しい発想で「ふるさと納税」制度に取り組む。全国の自治体にとっても、ニューモデルとなろうか。
総務省から泉佐野市と共に「ふるさと納税」から除外された3町も復帰、試行錯誤中らしい。佐賀県みやき町は、米、肉に加えて皮まで食べられる特産バナナの影響で好調な「ふるさと納税」だという。和歌山県高野町は、旅行クーポンの返礼品で人気が高かったが、現在は苦しんでいる様子。静岡県小山町は、アマゾンのギフト券を返礼品にして除外されたが、地元に特産品があるためまずまずらしい。キーワードは、「特産品」である。
泉佐野市には海があり、漁業組合もある。特産のアナゴやタコを用いて新商品を開発できるだろうし、タオルを工夫して珍しい産品を創る知恵も出してほしい。
自治体の活性化の目標の一つに「特産品」の製作を加える必要がある。「ふるさと納税」制度の発展は、特産品開発に的をしぼり、総務省も予算を組んで支援して、地方再生に乗り出すべきである。管理・監督するだけが総務省の仕事ではない。コロナ禍以外のことも考えるべし、だ。
もともと泉州一帯は、泉佐野市や貝塚市を中心にワイヤロープの生産地であった。しかし、韓国、台湾、中国もJISの認める製品を生産し、この地域の業者が苦しむ状況が続く。そこで泉佐野市は、「特産品」創りに転業する業者をも支援している。まさに地域社会の活性化のために「ふるさと納税」が生きている証しであろうか。
「マジメか?泉佐野市!」、総務省と戦って勝利した泉佐野市は、一転、「ふるさと納税」の制度を、異なった方向に転換してスタートを切っている。
千代松市長は、この傾向が全国に影響し、地方再生・創生の一助になればと考えている。地域社会で大切なことは住民の雇用創出、企業誘致にしても自治体と協力関係を密にできることだ。
どの自治体も「ふるさと納税」制度を見直し、ただ寄付金だけを増大させればいいという発想から逸脱すべき時期にさしかかっている。泉佐野市の再スタートを見習い、地元の活性化に取り組むべきだ。新しい時代の到来である。