大学の教員は、テレビ出演したり著作を出版したり、講演をしたりして副収入を得るのは自由である。むしろそのような外部で活躍してくれる先生がいることを喜ぶ。宣伝になるからだ。私が専修大教授だった頃、「タレント教授」と呼ばれ、毎日のようにテレビ出演。大学からはクレジットに「専修大教授」を必ず入れるように、との要望があった。
全国に講演で足を運び、多忙な日々で副収入は大きかったが、大学教員には自由があり、授業と研究をきちんとやっておれば、文句はなかった。副収入のあるような教員でなければ、存在感のない無能な先生と陰口をたたかれたかもしれない。私などは、テレビのレギュラー出演にとどまらず、CMも2本に出演、茶の間の人気者の1人でもあった。
どんな団体、企業であろうとも、大学教員のごとく副収入を得る人材であるということは、特異な能力、才能を持っている証明だが、日本社会は潔癖を好み、二足のワラジを履くことを良しとしない。特に公務員の人たちに対しては厳しく、せっかくの能力の発揮を認めない。これでは人材を腐らせてしまう。
毎日新聞によれば、神戸市は「副業人材」の募集を始めたというのだ。とりあえず、広報業務を委託する約40人を募るという。市のホームページの点検や記事作成を担ってもらうらしい。なるほど、かかる仕事は、プロの技術持つ人材でなければ、神戸市くらいの大きな自治体の面子を保つことができないであろう。
やがて神戸市は「副業人材」の活用が順調に進めば、広報業務以外も担当してもらうらしい。このような神戸市の発想は珍しく、公務員のイメージを柔軟なものにする。とはいえ、純然たる市職員というよりも、市の仕事を副業として行い、専門知識や技術を市の中で生かすということであろう。いわば、市の仕事を得意な面で発揮していただき、副収入にしてくださいという印象を受ける。
元来、優秀な人材は中央に集中していたかもしれないが、コロナ禍の影響でテレワークが普及し、人材が各地に拡散されているという事情もある。その人材の活用は、神戸市にとっては有効と読んだのか、登用に踏み切ったようだ。もっとも、神戸市は今までに専門知識を持つ民間人材を積極的に雇用してきた実績がある。「業務改革専門官」や「クリエイティブディレクター」ら、65人を雇用してきた(毎日新聞)。外部からの人材は、内部の人材と異なった視線を持つゆえ、組織にとっては刺激を受けるに違いない。
どのような身分の扱いとするのか不明だが、個別に仕事を委託するゆえ純然たる公務員とはならないと思われる。ただ、自治体の仕事をするということになれば、どのような人でも襟を正す。また、行政から仕事の注文を得ることによって誇りを感じ、生きがいを覚える。神戸市のような試みは、他の自治体も見習い、活力を注入すべきであろうし、正規の公務員にも大きな影響を与える。
「餅は餅屋」といわれる通り、各自治体の業務も高度で細分化されているにとどまらず、より専門化しているため、プロ並みの専門知識や技術持つ人材が求められるようになった。自治体のPRの企画や動画作成ともなると、一般の公務員では手に負えない。副業人材が求められて当然だ。広報紙の原稿や写真だって、素人には限界がある。外部の人材起用が必要、自治体の仕事でアルバイトの時代である。
それは各企業でも同様で、社員にやらせるより、専門家に委託した方が、何でも出来栄えが異なる。常にイメージアップを考える側からすれば、副業人材を求める。コロナ禍の影響でテレワークが普及、また地方にも人材がいる。どの自治体も容易に専門家に委託できる時代である。AIの時代、どの分野も改革が進み専門家の協力が求められる。
自治体には、市井の能力ある人材の登用を幅広く行い、新しい時代にマッチした役所のあり方を固定観念にとらわれずに考えていただきたいと強く願う。