【地方再生・創生論 252】「所有者不明土地」を増やしてはならない 松浪健四郎


松浪氏

 パリを旅行した折、旧知の木寺大使を大使館に訪ねた。大使夫人が、私たち夫婦を庭に案内され、お茶を振る舞って下さった。私は樹木の手入れがされていないので、「大使、簡単に剪定(せんてい)できますから、館員に手入れをさせたらどうですか」と問うた。大使いわく、「枝1本切るのにもパリ市に申請して許可を取らなければなりません。面倒くさいので、秋に一度に申請するようになっています」。

 緑を大切にするフランス政府の姿勢が伝わってくる。もっとも、日本でも隣地から伸びてきた木の枝は、所有者のみが切除できるだけで、迷惑を受ける人たちは切除できない。わが家には、しだれ桜の大木があるが、秋には困り果てる。落葉が隣家にも多く落ちて大変な迷惑を掛けるが、簡単に掃除のために入るわけにはまいらない。「お互いさま」という言葉のある国とはいえ、昔のように隣家が家族同様の交際があるならともかく、現在では全く知らない人が偶然に隣人となる。

 民法の改正がなされ、隣人とうまく交際・交流できるようにしないと、新興住宅地に住む人たちの関係はギクシャクするばかりだ。自治体として、最も困るのは「所有者不明土地」の存在であろう。登記簿だけでは、その土地の持ち主が判明せず、判明したとしても連絡がつかないケースがあって困り果てる。朝日新聞の報道によれば、「所有者不明土地」は、既に410万ヘクタールに達していて、九州の面積を超えているというから驚くしかない。登記した人が死亡すれば、「所有者不明土地」が増加するばかりだという。

 あと20年もすれば、九州の面積を凌駕し、北海道と同じ広さになるばかりか、経済損失は6兆円に達する。相続登記を所有者の判断に任せてきた明治以来の考え方では、「所有者不明土地」がばんばん増加するだけである。土地価格は下落しない神話が定着していたにもかかわらず、相続人がいなかったり、いたとしてもコストと手間が掛かるという理由で登記しないようだ。しなくとも不利益がないので不明土地が増えてしまう。また、相続人が登記したとしても、次々に転居されると不明土地を生むことになる。

 困るのは、震災時である。集団で高台に移転しようとしても、「所有者不明土地」があれば、同意がとれず話が頓挫してしまう。台風で千葉県の街道近くの山林の樹木が倒れ、電柱が巻き添えされて停電した。だが、樹木と山の持ち主が不明のため切断できず、停電の復旧に数日もかかった例がある。自治体は、土地の持ち主の不明者を徹底的に調査しておかねばならない。税をかける上でも大切であるばかりか、災害時に多くの人たちが困る原因ともなる。この種の調査は面倒くさいため、自治体は放置している場合が多いが、それを許してはならない。課税放棄のみならず、安全対策上危険なのだ。登記簿を見ただけでは、地主を判明させるのは困難な場合が多いようだが、地道な努力が自治体に求められている。

 民法改正の第1は、登記の義務化である。そして、相続人が土地の所有権を放棄し、自治体か政府の所有とする法律にすることだ。私は自治体の所有地にすべきだと考える。なぜなら、自治体なら活用するアイデアを持っている。国の所有にすると、数年間は塩づけとなるに違いない。

 各自治体は、一人暮らしのお年寄りにさまざまなサービスを行い、土地・家屋の相続についても調査・聴取しておくべきである。これ以上の「所有者不明土地」を増やしてならず、そのための民法改正を政府は急ぐべきである。近年、土地の所有者不明の隣接地で崖崩れや土砂の流出があると周辺の人々が困る。危機管理上においても不明者の土地があってはならない。

 私自身も故郷に土地を持っていたが、納税だけはしても利用せず、困ったことがあった。家内の実家では、あちこちの別荘地を購入、そのまま家も建てずに亡くなり、家内が相続した。税は私が払っているが、登記しない人の心理がよく分かる。

 
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