【地方再生・創生論 274】一人暮らしの高齢者のために 松浪健四郎


松浪氏

入院など経験したことのない私は、入院する際、病院に幾枚かの書類を提出するけれど、「身元保証人」が必要であることを知った。そこで質問した。「もし身元保証人がいなければ、入院できないのですか」。「お断りするケースもあります」。これは厄介である。私たちのように後期高齢者の仲間入りをすると、身寄りがなくて一人暮らしする人も多い。身元保証人がいなければ、入院できないケースもあり得るのだ。

老人ホームのような施設に入るにしても、一般的には身元保証人が必要である。私は、保証人を家内にするか長男にするか迷った挙げ句、長男にした。親への責任を感じさせるのにいい機会だと思った。長男がやって来て、入院のための用紙に印鑑を押す。よく考えてみれば、身元保証人の重要性を悟る。

「病人が意識をなくし、治療方法を決定する相談相手たる保証人がいる」「入院費用の支払いを保証する人がいる」「死去した場合、遺体の引き取りと遺品の回収者が必要となる」。他にも理由があるだろうが、病院としては身元保証人がいて安心できる。老人ホーム等も同様であろう。わけても、老人が認知症になって銀行口座の暗証番号や通帳の置き場所を忘れてしまったりすれば、施設が相談するべく身元保証人が求められるに違いない。

総務省関東管区行政評価局の公表によれば、身寄りがないと病院や施設に入れないという問題について切り込んだという。病院や施設の回答によれば、92%が身元保証人を必要とする。医師法や厚生労働省令によれば、身寄りがない理由で入院を拒否できないが、現実問題として、やはり常識的には身元保証人を求める側の立場も理解できないわけではない。特に生命に関する事象が起こった場合、困り果てることが容易に想像することができる。

核家族が増加したり、親子の対立があって連絡不通、親戚との交流がない、さまざまな理由によって「身元保証人」を持たない高齢者が増加する一方である。そこで、身寄りのない一人暮らしの高齢者について、前もって各自治体は「親族調査」を積極的に行っておき、いざといったときに備えておく必要がある。病院や施設に調査させるのではなく、高齢者の一人暮らしにやさしい自治体であるべきだ。

省令に触れる現実を承知しながらも、病院や施設が受け入れを拒否する実情があるのだから、自治体は万が一の際にその高齢者がサービスを受けることができるよう協力してほしい。高齢者が元気であるうちに、自治体の役人がインタビューしておけば、本人も助かる。かつて必要でなかった役所の仕事が増加することになるにつれ、住民本位の思考からすれば、「親族調査」をきちんと行っておく必要がある。私たちは、高齢者に対して冷淡であっていいはずがない。

ただ、その高齢者の身寄りが、いくら調査しても見つけることができない場合、行政側がどうするのかを決めておかねばならない。介護施設に入る必要が生じたり、入院せねばならなくなったりすれば、身寄りがいなくとも自治体がどうするかを決めておけば、受け入れ側も安心することができる。一人一人の人間の運命は、全て異なる。が、どんな人であれ、その人の尊厳を傷つけることなく、陵辱が加えられてはならない。そのために自治体は高齢者を守るために熱心であるべきだ。

家族の状況も一瞬にして一変する。特に現代社会にあっては、予想できぬことが生じるため、各自治体は住民サービスも多岐にわたる。「身元保証人」が必要である施設がある限り、その保証人を持たない高齢者の存在を無視してはならない。各自治体は知恵を絞ってほしい。条例で対応するのか、徹底して「親族調査」を行うのか、自治体のサービス精神に期待する。

高齢者の一人暮らしは、さらに増加する。安心して生活できる自治体を売り出すとしたなら、「身元保証人」について思慮してしかるべきであろう。

 
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