【地方再生・創生論 295】公立学校の施設開放問題 松浪健四郎


松浪氏

 家内の実家が公立中学校の前にあった。眼前に運動場があり、誰も使用していないので、息子にラグビーのパスを教えていると、教職員が飛んできた。「使用できないルールですので、ご遠慮ください」と言う。公共施設の利用は、バカみたいな規則で縛られている。問題が起これば、教育委員会や自治体が責任を問われるため、どうしても及び腰になる。

 学制が発布されて150年。全国に小中学校が設立されて今日に至るが、この公共施設の使用については、残念ながら岩盤のルールに支配されてきた。公教育の神聖さと権威が、学校施設の開放を阻んできた。声高に開放が叫ばれるのだが、いつの間にやら、その声も失速して機運がすぼむ。その繰り返しの歴史が、公立学校の施設開放問題であろう。

 神奈川大の大竹弘和教授が、『学校という「ハコモノ」が日本を救う!』なる著作を刊行(白秋社)した。学校施設の開放の手引き書で、自治体や教育委員会の頭の堅い人たちに読んでいただきたい。私の日体大の後輩でもあるので、早速、直接、著者から話を聴いた。「聖域といわれる学校を、学校教育と学校施設に区分して、民間事業者の力を借りて有効活用することで、教育格差だけでなく関連する諸課題を解決できると確信しております」。加えて、1年のうち学校は170日は使われておらず、授業が終わった15時以降も、あまり使われていないと続ける。中学校のクラブ活動の民営化に文科省が取り組むが、大竹教授の案はさらにスケールが大きい。

 なぜ、学校施設の開放がタブーだったのか。事故が生じた際の責任問題と施設管理問題を面倒くさいと考えてきた印象を受ける。私どもは幼稚園も経営しているが、音楽教室、バレエ教室、英会話教室等に貸し出している。私立ゆえ容易に民間業者に貸し出せるのだが、この発想を公立学校も生かすべきだと考える。その問題を大竹教授が深く解析し、未来の公立学校の施設活用について鋭く説いている。

 日本の学校の講堂や体育館には、劇場よろしく舞台がついている。これは日本独自のもので、昔はこの舞台を自治体や町内会の人たちも活用していた。また、災害時には避難所として使用されるのも一般的である。このように開放することを当然視しながらも、民間業者に貸し出しすることを避けてきた。商行為は悪と決めつけ、あくまでも純粋な教育面だけの使用に限定してきた感じがする。教育委員会も仕事を増やしたくないに加え、自治体に利益をもたらすという発想がゼロなのだ。

 十分な施設を持つ学校を、いかに活用して地域社会の人たち、子どもたちにも喜んでもらえるかを再考する時代に突入している。学校開放をただの題目に終わらせず、本格的に対応する必要がある。学校を子どもたちだけの園にせず、あらゆる人たちが利用できる施設に転用していいと思われる。広い校庭、体育館、図工室に音楽室、調理室もあれば会議室もある。しかも用具までも準備されているのだ。これらを眠らせず、民間に開放して収入に結び付ける。大竹教授の言う学校施設の有効活用である。俳句教室、料理教室、盆栽教室、民謡教室、体操教室、ヨガ教室等々、さまざまな文化的な指導も行われるだろうし、子どもたちのための書道、珠算(そろばん)、絵画、バレエ、卓球等々の教室も開かれる可能性がある。民間業者は、工夫して魅力的なアイデアで学校施設を巧みに活用してくれるだろう。

 私たちには、発想の転換が求められている。その第一歩は、まず学校の開放だ。自治体が決意して、条例を作り住民の生活に潤いを与えるべきである。大竹教授は、「地域の学びと交流の場に積極的に学校を活用するべき」と唱えるが、この古くて新しい問題は自治体が本気になれば、すぐにできると私は考える。地域の活性化策は、学校開放から始め、人々の交流の場を作ることであろう。首長のリーダーシップ、議会の理解に期待したい。刑務所までも民営化されている時代なのである。

 
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