【地方再生・創生論 307】消防団員減少は国家的問題だ 松浪健四郎


 地方自治体の持つ消防車や救急車が古くなると、アジアやアフリカの発展途上国に寄付する場合が多い。大阪府熊取町の消防車が古くなったので、マダガスカル政府に寄付するようにあっせんしたことがあった。地方自治体にあっては、外交ルートを通じて交渉しづらい面があったが、大使館を通じて行った。贈呈式にも参加したが、大臣や知事も出席するほどの盛大さであった。日本の消防車が古くなったとはいえ、手入れもされているのでまだまだ使える。とても喜ばれ、両国の親善に役立った。熊取町には町中央に消防署があり、各町には消防団員がいて車庫の管理も行う。

 山火事が起こると、地元の消防団員がいないと困る。道案内も当然ながら水路の確保のためにも地元の詳細を知る人材が必要である。しかも器具の使用技術を持つ団員がいると、大きな戦力となる。この消防団員は、全国で80万人を維持してきたが、昨年80万人を割ったと総務省消防庁が発表した。これは地方防災を考えたとき、心配すべき問題である。高齢化が進み、若い団員が減少しつつある波は地方にまで及んでいるのだ。

 地方自治体の消防体制は、署員だけではまかなえず、消防団の協力が不可欠である。とりわけ自然災害には員数が必要であるとともに、詳細な地理の知識を持つ人が大切だ。その団員が減少してきたのは国家的な問題でもあろう。

 政府は、永年、この地方の消防団員を高く評価してきた。危険が伴うばかりか郷土愛に燃える団員を各種の表彰制度や勲章の顕彰で称えてきた。当然のことであり、団員のボランティア精神によって国土が守られてきたことを私たちは忘れてはならない。

 消防庁の発表によると、1955年には消防団員は200万人もいて、1990年には100万人を割り込んだという。そして、昨年は80万人を割ったのだ。

 不安材料は、30歳代以下の若者の減少が目立つ点である。少子化面の問題もあろうが、若者が地方から消えているため、本来、団員の8割を占めていたのに高齢化が進み、現在では4割を下回っている。しかも歯止めがかからず、さらに高齢化が高まるという。

 沖縄県を除く都道府県が新入団者を増加させることができずじまいだった。特に心配なのは、長野、新潟、福島、熊本の各県の減少数が多い点である。自然災害の折、困るに違いないだけに、増加策を考慮せねばならない。

 企業の協力も不可欠であろうし、自治体や消防署の広報活動も盛んにすべきである。また、防災以外の魅力の宣伝も行い各種の企画力を発揮してほしい。前出の熊取町が救急車を発展途上国に寄付する際、若い消防団員も参加した。防災も国際交流に役立つことや、訓練が楽しいものであることを知れば、入団希望者が増加するかもしれない。

 消防車や救急車を途上国に寄付する折、必要なのは輸送費である。熊取町は町民から寄付を集めて輸送費を捻出していた。救急車内の医療器具は高価であるため外していた。国際協力や地元の行事参加、ポンプに関する大会の参加、コミュニケーション機会の少ない時代にあって、地域社会に貢献しながら友人を持つ組織に入るのは人生にも潤いを与えてくれる。この広報活動をしっかり行うべきである。さらに、団員の補助員として女性団員の募集についても考慮すべきであろう。

 正月前の年末、「火の用心」を町内の寒空に叫ぶ若い消防団員たちに接すると、まだまだ日本の若者たちは大丈夫だと感じさせられるが、人材確保が難しくなっている。ここにも少子化の影響を読み取ることもできるが、外国人の入団についても研究する必要がある。地域防災は、その地域に住む人たちの協力でできるゆえ、日本人だけに限る必要はない。

 団員のユニフォームも若者向きの魅力的な物を支給すべきだ。靴からヘルメットまで、総務省消防庁がどこまで本気であるかが問われている。車や器具は団員に行き届いているにつけ人数が足りない。その課題は難しい。

 
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