【地方再生・創生論 313】大学のある町は観光地にもなる 松浪健四郎


 各大学は都心回帰、広々としたキャンパスから実力ある大学は都心部に戻りつつある。ラーメン屋があり、パチンコ店があり、古書店、居酒屋、麻雀店等が雑然とあり、印刷屋から散髪屋、カレー店もあればクリーニング店もあった大学の街。1万を超える学生数もつ大学の近辺は学生相手の商売で成り立っていた。夏休みや冬休みがあろうともサークルの学生たちがキャンパスで活動する。

 ところが、大学に進学者が増加するにつれ、学部、学科を増設するにつれ、昔からのキャンパスでは手狭となり、郊外へと移動した。理想的な美しい近代的な校舎を建設し、さらに人気を高めようとしたが、受験生たちは応じることなく都心にある大学を選択するようになった。利便性もあったろうが、郊外ではアルバイト先がないという声もあった。授業料の高騰、学費負担は親からの仕送りだけでは学業継続が困難な時代に突入していたのだ。

 加えて、古くからの大学は、その立地に歴史があり、老舗的な魅力が潜んでいたことを経営者たちが理解していなかった印象を受ける。例えば、慶應義塾大の三田キャンパスは、もとは藩邸の跡地であった。手狭ではあるが、この校舎を離れることは関係者が許さない。関西学院大の西宮上ヶ原キャンパスは、鉄道会社が誘致したのだが定着している。桜美林大は軍用地からの転用でありながら発展を続ける。工場跡地や廃校となった学校跡地に移った大学も多数あるが、大抵は町中に位置している。ポツンと大学だけでは、大学経営が困難を伴うに加え、ブランド力が低下してしまう。国士舘大は長州藩の武家の住む跡地に建つ。

 アメリカの大学は、大学ができると町ができる。大きな州立大学に限られるにしても、大学を中心にしてその地域が発展してきた。設立時は都心ではなく郊外だったのに、都市が拡大するにつれ都心部に位置することとなった大学も数多くある。早稲田大、立教大、学習院大等がその例であろうか。そしてブランド力を向上させてきた歴史をもつ。

 学生街のできない所には、大学の立地は難しい。交通網の十分でない地にも大学の立地は考えられない。関西大は、府下堺市の廃校となった府立高校に新しい学部を設置したが、都心部の難波まで至近距離にある。学生募集も成功していて、勢力を拡大させている。

 政府は、自民党と共に神田の古書店街の存在の再評価を始めつつある。日本各地に特色ある商店街があるが、わが国の文化を象徴する街であるがゆえ、保存も視野に入れて発展させようと考えている。神田は学生街の代表的な街で、日本大、中央大、専修大、明治大といった大型私大が腰を据えてきた。もともとは法律を教える私立学校が神田地区でスタートを切ったが、いずれも夜学からであった。

 パリの第6、7大学は、ルーモンジュ通りの近くにあり、カルチェ・ラタンという文化と学問の街を形成している。フランスも日本も学生の集う地域は同じような発展をするのだと感心したが、共通する面のあることをも学んだ。まず、本屋、楽器屋、画材屋、印刷屋等の文化的な商業を営む店があること。レストラン、居酒屋や喫茶店のような寛げる店とスペースがあること。古着をはじめファッションの専門店があること。質屋や銀行といった金融関係の店があること。しかし、神田の古書店街のような存在は珍しく、官僚や研究者の多い地理的条件がそろっていたためにできた商店街だ。

 雑多な事象を大学の立地の一面から記述してきたが、私は大学のある町は、大学とともに観光地にもなるのではないかという提言をしたいのである。大学のグッズが買えて、大学内の食堂で学生メシを体験できる、そして教授から役立つ学問の話を聴く。観光は名所だけのものではなく、学問の府にもスポットライトを当ててほしい。

 外国の大都市へ行くと大学街が観光地ともなっている。アメリカでは地方の大学も観光地である。学生文化に触れる大学とその周辺の観光開発を急ぐべきである。

 
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