【地方再生・創生論 315】「地方留学」が地域社会の活性化に 松浪健四郎


 大阪といえど、私の故郷は自然の豊かな地方都市・泉佐野市である。山があり、川があり、池があり、そんな自然の中で育った。今思えば幸運であった。鳥やウサギを飼い、その世話も楽しかった。チャボなどは、すぐにヒナをかえして増える。ハトをバスケットに入れて、遠くから放つと、すぐに戻って来た。

 これらの体験は、貴重である。都会で生まれた子どもにとっては、異国の話であるかもしれない。発育・発達を考慮し、人間らしき精神を涵養(かんよう)する上で、大切なのは体験させることに尽きる。学習塾に通わせるよりも、自然と接して多くの仲間と遊び語り合う方が好ましい。それで、私などはあまり勉強しなかった部類に入るが、感性や創造力はたくましくなったと自認する。

 日体大は地方の自治体と連携協定を締結しているが、その中に隠岐の島の海士(あま)町がある。元気のある町で、さまざまな取り組みで有名な町となっている。この町に中学校や高校があるが、本土から多くの「地方留学生」が集う。自然の島の暮らしが魅力なのだろう。進学についても親が心配しなくてもすむように、中央から予備校の指導者を招いて夜に指導する。町ぐるみで「地方留学生」を歓迎し、たくさんの思い出づくりに協力していた。

 過疎を逆手にとり、「地方留学生」にとどまらず、移住者を増加させている海士町。移住者が事業を始めるに当たり、町が資金をはじめ多方面にわたって協力する。アメリカンドリームのごとく隠岐の島ドリームを実現できるように、移住者たちが頑張っていた。特色ある牛を飼って牛乳や肉を売る人がいたり、海を用いて養殖する人がいたり、町を活性化させる。

 最近、「地方留学」という言葉をあちこちで耳にする。都会生活が子どもにとって良い教育環境だと両親は考えない時代を迎えたのだ。親元を離れて、独立心を育てつつ大自然に囲まれた中学や高校へ進学させる両親が増加しつつある。特に愛媛県は受け入れに熱心である。少子化時代に突入し、地方の学校には余裕がある。高校も中学も統廃合の流れが全国的にあるが、県外から生徒を募集する、受け入れる発想が定着しようとしている。四季折々の風景、都会では経験できない行事、どれも地方の魅力であろう。

 この魅力を自治体は売り物にすべきだ。そこで住んでいると、どうしても灯台下暗しになり、魅力を魅力と感じなくなってしまう。地方の自然こそが、その地域の牧歌的な人柄もつ住民こそが、大きな魅力であることを認識する必要がある。県外、特に都市部から生徒を招く方策を研究してほしい。「地方留学」は、地域社会の活性化につながる可能性をはらむ。1人でも多く人口を増やす方法を各自治体は考えねばならない。

 生徒たちに釣られて、親たちも移住してくれるケースもあるという。このコロナ禍で働き方も変わったり、価値観が多様化したりして、都会から地方への流れが始まっている。東京都をはじめ、首都圏では、ややもすれば移入人口よりも転出人口の方が増えつつある現実に注目すべきだ。都会では何もかも高価、生活がしづらくなってきた。環境に魅力があり、人間らしい営みを求める人たちが地方へとなびく傾向にあるゆえ、各自治体は都市部で説明会を開催し、「移住」と「地方留学」を宣伝すべきだ。

 子どもが「地方留学」すれば、1年に数回両親や家族が会いにやってくる。それだけでも地域社会に貢献するだろうし、何がしかの縁ができる。交流が進めば「移住」も促進する可能性をはらむ。地方の自治体は、地方の魅力をいかにアピールするかにかかっている。過疎を逆に利用し、都市部から人々をいかに移住させるか研究し、積極的に宣伝すべきである。

 都会の人たちは、都会生活にうんざりしつつある現実を認識し、子どもたちを「地方留学」させようと考えている。このチャンスをいかに生かすか、「地方留学」のために生活をいかに送るか、自治体が環境や条件を整備せねばならない。

 
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