【地方再生・創生論 322】自治体の「プライド条例」を考える 松浪健四郎


 北海道の網走市に日体大は8年前に付属高等支援学校を設置した。日本初の私立大が設置する支援学校である。北の大地で、共生社会の先駆けとなる知的障害者の高校だ。で、私に校歌を創るようにとの声。早速、創作に取り組んだが難しい。甲子園の高校野球で、各高校の校歌を耳にするが、いざ、自分が作詞するとなると難しいから大変だ。

 どうしても自画自賛的な歌詞になる。網走の環境、風土も盛り込みたい、生徒たちへの希望も書き入れたい。あれこれ考えると歌詞が長くなる。さりとて、短くすることもできないので悩むこととなる。関係者や生徒たちに愛される歌詞にしたいけれど、感性の乏しい私には困難な仕事だった。愛され、誇りをもっていただけるような校歌を作りたかったが、果たしてどうか自信はない。

 このような話を記述した背景には、近年、首を傾げたくなるような条例を各自治体が作っている現実がある。例えば、かつて私たちの青春時代に吉永小百合と浜田光夫の演じた映画の「キューポラのある町」で名高い埼玉県川口市は、「大きな声で川口が大好きだと叫んでみませんか川口プライド条例」を施行した。ちょっと待ってほしい。プライドを条例で定めるなんて不自然だと思うが、どんな感性でこの条例を成立させたのかと疑問をもった。

 条例は法の一種である。川口市は人口60万人を超える鋳物で有名な町、市民で川口市が大好きだと叫んでみようという条例。市民全員で、わが町川口を愛しましょうというのだから、ちょっとおかしいと思わないのだろうか。条例をもてあそんではいまいか。いや、故郷を愛する強い思いが条例になったと解釈すべきなのだろうか。だが、大好きだと思いなさいと強制しているかの印象も受けはしまいか。私の歌詞同様、自画自賛型の条例という感じがする。

 かかる条例が、どうも流行しているらしいのだ。「シビックプライド条例」なるものが、各自治体で施行されているのだ。地域や町に愛着や誇りや共感をもち、さまざまな活動で自ら関わっていこうとする気持ち、だという。

 作家の吉永みち子氏は、「気持ちの方向を条例で定めるということに、かなり違和感がある」と記述(「スポーツニッポン」)していたが、同感である。昨今、自治体の行事の多くは住民参加型で占められているが、もっと積極的に関与しましょうという条例であるようだ。

 住民の行動を促す条例、罰則がないといえども、しっくりしないのは私だけだろうか。その昔、「道徳」の授業を巡って大騒ぎしたことがあった。わざわざ人の行為を押しつけるのはおかしい、というような意見が多かった。全ての授業や活動を通じて自然に教えるべきだという意見もあったが、文部省は押し切った。人の心や行為は感性である。いい面もあろうが、画一的でリスクもある。わざわざ教える必要がないとの議論もあったが、工夫して指導することによってリスクを小さくしている。

 私が与党の一員になってすぐ、「国旗国歌法」が国会で議論された。まず、海外に出る航空機や船は、国旗が目印になっており、国を明確にしないと不審機・船となる。従って国旗を法で定める必要があったが、国旗や国歌を押しつけるのはおかしいという考えが野党の一部にあった。私は国際感覚で質問に立ち、制定に賛成した。国旗と国歌のない主権国家なんて考えられず、制定して当然だった。

 が、前述してきた条例は、ある意味では強くないが押しつけともとれる。郷土愛や誇りは、わざわざ条例で定めるものではなく、住民個人がどう考えるか、思うかにかかっている。議員が住民にそれらを求めるのではなく、素晴らしい行政によって、住民の心情が動くものであろう。

 地域活動を活発にさせたいという議会の思惑も理解できないわけではないが、わざわざ条例を作って誘い水にするのはいかがなものかと思う。条例は、住民の立場に立って、真に住民に役立つものであらねばならない。

 
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