【地方再生・創生論 324】「小さな親切」運動のすすめ 松浪健四郎


 私が専修大学の教壇に立っていたとき、大学の建学の精神が「報恩報任」であった関係でか、大学ぐるみで「小さな親切」運動に取り組んでいた。教職員がゴミを拾うのは当然、学生たちに強制するのではなく、さりげなく美意識や清潔感を教えるような雰囲気が漂っていた。品行方正の心を植えつけるのは、難しい。道徳という教科があろうとも、全ての日本人に親切心を身に付けさせるのは難しい。

 親切心とは、私は「豊かな心」だと思っている。己の立場よりも相手の立場に立って行動すること。犠牲的精神の発揮でもあろうか。大切なことは、いつでも、どこでも、誰にでもできる親切を身に付けることである。

 とりわけ高齢化社会の日本にあって、外出すると困っている高齢者と出くわす。また、多くの身体障害者とも遭遇する。こんなとき、私たちは積極的にお手伝いをする、協力することができるだろうか。今の時代、手助けが必要な人たちが多くなっていて健常者のみならず、私たちは「親切心」を保持しなければならない。古い日本人は、それを当然と考えてきた。

 1963年(昭和38年)に、「小さな親切」運動本部が発足した。東大学長だった茅誠司教授の提唱だったという。心の通う温かな社会づくりを目指し、全国的に活動を展開して今日に至っている。組織化も進み全国各地に支部が設立され、全国運動となっている。

 ボーイスカウトのような青少年活動は横に置くとして、私は全ての国民が「親切心」を持つようにする企画が求められると考える。西洋ではキリスト教会を中心に、さまざまな行事やマナーの徹底が図られているが、日本では宗教に頼ることは歴史的にも困難である。

 その昔、日本の小学校の各区で「子供会」なる組織があって、父母の指導によって公園や河川の掃除をしたり、道路の草むしりをした。公共心を植えつける好材料だったが、今では危険であるばかりか、「子供会」そのものが存在しなくなってしまった。時代の流れとはいえ、公共心、道徳心、親切心を身に付けさせることを考えねばならない時代だ。

 各自治体は、春と秋に警察署と協力して「交通安全週間」を設けて運動をしている。自治体だけではなく、各団体も巻き込んでいる。商工会議所、青年会議所(JC)、婦人会、町内会等々、多くの人たちの参加と協力で行われてきた。で、交通事故死は激減した上に、違反者も減少しつつある。

 私は、この「交通安全週間」をモデルにして、自治体が音頭をとって「小さな親切週間」を行ってほしいと願う者である。すでにモデルがあるに加え、毎日毎日、学校近くの信号機横で登下校の見守りをしている親切な人たちが多くいる。この人たちにも参加していただき、自治体が中心になって運動を展開してほしい。

 外国人観光客も増加傾向にあり、私たちは外国人にも日本人の「心」を示す必要もある。観光は景色や名所だけではない。私たち日本人も見ていただく”対象物”と考える必要がある。

 美しい国・日本であると同時に、美しい心持つ国民。そのために私たちは金をかけずに意識革命を起こさねばならない。ある団体は、全国の学校のトイレ掃除を熱心に行っている。この運動も全国に広がりつつあるのがうれしい。きれいなトイレを使用すれば、きれいにしようという意識が働く。清掃活動に参加すれば、二度とゴミを捨てたりしなくなるであろう。自治体のリーダーシップを期待したい。住民の協力をいかにすれば手中にできるか、地域差はあろうとも私はできると信じている。

 最後に「小さな親切」運動本部の8カ条を記す。(1)朝夕のあいさつをしよう。(2)はっきりした声で返事をする。(3)「ありがとう」と言いましょう。(4)「どういたしまして」とお礼を言う。(5)物を捨てない。(6)席をゆずる。(7)困っている人を手伝う。(8)迷惑になることはしない。

 当然の行為であろうが、残念ながら私たちは日常生活の中で忘れてはいまいか。

 
新聞ご購読のお申し込み

注目のコンテンツ

第37回「にっぽんの温泉100選」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 1位草津、2位下呂、3位道後

2023年度「5つ星の宿」発表!(2023年12月18日号発表)

  • 最新の「人気温泉旅館ホテル250選」「5つ星の宿」「5つ星の宿プラチナ」は?

第37回にっぽんの温泉100選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月1日号発表)

  • 「雰囲気」「見所・レジャー&体験」「泉質」「郷土料理・ご当地グルメ」の各カテゴリ別ランキング・ベスト100を発表!

2023 年度人気温泉旅館ホテル250選「投票理由別ランキング ベスト100」(2024年1月22日号発表)

  • 「料理」「接客」「温泉・浴場」「施設」「雰囲気」のベスト100軒