【地方再生・創生論 327】生成AIをいかに活用するか 松浪健四郎


 父親が会計事務所を経営していたので、事務所にはガリ版の印刷機があった。鉄筆で原稿を作り、印刷する方法を知った。自分で学校新聞を発行し、正門で配った小学生時代。勉強よりも「情報」の発信が好きだった。コピー機が出現すると、世の中からガリ版は消失した。石版印刷、活版印刷は浮世絵の歴史も手伝って日本の文化を支えてきた。

 1968年、米国留学した私は驚いた。既にコンピューターが一般的となり、新聞の求人広告は「プログラマー募集」一色だった。情報管理社会が構築されていて、日本の時代遅れを痛感した。日本でのコンピューターの普及は相当遅れたが、やっと追いついたと思うと、また離されるという鬼ごっこ状態が続いた。ITの産業化は森喜朗総理大臣の頃から本格化したゆえ、まだ四半世紀の歴史しか日本にはないのだ。「楽天」や「DeNA」がプロ野球の球団を持った頃から、IT産業の実力を国民が認識するようになる。

 紙幅がないので、いきなり生成AI(人工知能)のチャットGPT問題へと飛ぶ。社会も大学も、この生成人工知能が急速に普及したため、混乱中である。猛スピードといってよい普及度、これを認めるのか、認めないのか、法律もルールもできていないのに、どんどん技術もソフトも進歩する。「情報」がここまで進むと信じがたい問題が生じて当然だ。

 かつてAIの第一人者である松尾豊東大教授と対談した折、「AIがどこまで進歩し、社会の中でどこまでの役割を果たすか想像できないほど、AIの未来は大きい」と語られたが、それは数年前の話であった。もう既に、私たちはコンピューターの奴隷になって久しい。どこへ行っても人々は、スマホとにらめっこ、この習慣は文字文化である新聞や雑誌を追放したばかりか、出版文化も駆逐する勢い、この「生成AI」の衝撃は大きい。

 企業や自治体はどうするのか、教育の現場はどう扱うのか、テンヤワンヤである。はっきりしているのは、利用者にもリスクがあること。チャットGPTによって、文章や画像を自動で作る生成人工知能をいかにして活用するか、きちんと線引きをしておく必要がある。

 情報漏えいや著作権侵害のほか、メリットもあるがリスクもあるのだ。会議資料や報告書の作成、自治体にあっても有難いに違いない。書類の文章等も簡単に作ってくれる。仕事が容易にできるばかりか、議員の質問や答弁までもAIにお願いできる。

 先ごろ、東京都教育委員会は、チャットGPTを巡って、宿題を出す際、生徒にその回答を提出させないなどの留意点をまとめた資料を各学校に通知した。学校教育においては、正解を求めるだけでなく、児童・生徒が自ら考える力を育成することが重要として、AIの回答をコピーして提出させないようにした。思考力の養成こそが大切で、安易なAIの使用に歯止めをきかせようとした。教育の空洞化を恐れ、危機感を強くもっている。

 中央官庁や自治体では、各大学と同様、チャットGPTの利活用について検討が進む。既に利用すると宣言している自治体もある。リスクを伴うことも頭に入れて、慎重であらねばならない。著作権や個人情報関連の問題もあるが、最も心配なのはニセ情報である。容易に情報を拡散させることができるので、その情報がニセであれば大変なことになる。利活用は慎重であらねばならないが、拒否する必要もない。リスクについての知識も求められるが、失敗ばかりを恐れていると前進しない。

 自治体でのAI使用は、論文を書いたり専門的な技術を説明するものでないだろうから、有効であると思われる。ただ、地方色や個性を表出させることを考えると手を加えねばならない。手間のかかる仕事を短時間で終えることができようが、メリハリのきいた独自色を出すことは無理である。 

 AIに振り回されるのではなく、常に自分で考え作る人であってほしい。それが能力向上につながる。

 
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