【地方再生・創生論 342】差別の解消は日本社会長年の課題だ 松浪健四郎


 NHKテレビの「ファミリー・ヒストリー」を毎週楽しみにしている。一個人の出生の秘密やエピソード、その家庭の歴史が興味を引く。俳優の草刈正雄の出演だった。父親がアメリカ兵で母親が日本人、ハーフであったので子ども時代、差別を受けたと述懐していた。母親が苦労して育てた物語、アメリカに親族のいることを突き止め、対面するシーンは劇的であった。NHKのパワーのすごさを知る。

 生まれた境遇や居住地を理由に、理不尽な差別があってはならないが、以前はハーフ(混血)も差別を受けた。単一民族国家に見える日本社会にあっては、異端に映ったのであろう。だが、芸能界、スポーツ界に限らず、あらゆる分野でハーフの日本人が活躍するようになると、偏見が薄れてきたかの印象を受ける。もはやハーフは珍しい存在ではなく、国際化された社会らしく一般的になりつつある。

 表面上、何の差別もないかに見える日本社会だが、在日朝鮮人や被差別部落出身者の差別はゼロではない。あってはならない差別なのに、いまだに差別を助長させる許されない行為があるのは残念でならない。「平等」であるはずの日本社会、私たちは悲しいことにその差別を教えられる。私は被差別部落の近くで育ち、学校で多くのその出身者の友人を持つゆえ、いわれなき差別を認めることができない。

 被差別部落の地名リストをインターネット上で掲載した出版社に対し、東京高等裁判所が公開や書籍出版を禁止した上で、賠償も命じた。差別する行為は許されないと明確に指摘した判決で、一審に続くものだ。

 いかに出版、表現の自由があるとはいえ、差別を助長し、その出身者や居住者を不利益に導く行為は、当然のことながら認められない。個人の尊重や法の下の「平等」を定める日本国憲法の趣旨に基づくばかりか、商行為の歯止めをも示唆する。出身者や居住者の立場に立てば、地名リストの公開は平穏な日常生活を脅かすだけではなく、人間としての尊厳に傷がつく。

 国会で幾度も部落差別の解消のために法律が作られ、私も議員として積極的に行動した。部落解放同盟の皆さんと共に立法化に協力した。偏見や差別意識は、社会の近代化が進んだにもかかわらず消えなかった。根強い差別、日本人の保守性に泣かされたことを想起する。

 地名リストは、私たちが大学生であった1970年代にもマスコミをにぎわせ、社会問題となった。地名リストは、身元調査等に利用されたとしたなら、大きな人権問題である。かかる問題が、現在でも裁判所の案件になっているとは驚きでしかないし、残念である。健全な民主主義の発展を考慮すれば、差別を一掃せねばならない。政府も自治体も、今一度、人権問題に取り組むべきである。

 多様性が認められる時代に私たちが生きている。だが、差別はあってはならず、「平等」を徹底させ先進国としての品位を保つ必要がある。プライバシーの侵害はもちろんのこと、身元調査を目的とした戸籍謄本の不正取得等、各自治体は差別につながる行為には目を光らせねばならない。差別意識を生み出さないように工夫する必要もある。「差別されない権利」もあるのだから、人権に関しては敏感でなければならない。

 ネット時代に突入して、無責任な書き込みが多々あって、時に人々を苦しめる。誰もが目にすることができるため、情報が拡散しやすいし、それを完全に消去するのも困難だ。ネット時代は、便利で役立つことも多いが、大きなリスクも抱える。それだけに誹謗(ひぼう)中傷に関する問題も生じ、事件に発展することも多い。

 政治家時代、私もネットの書き込みに苦しめられ、嫌気がさしたことがあった。人の心理状態は微妙であるゆえ、情報発信は慎重でなければならない。人権問題はおろか、犯罪を招来させることもあろう。部落差別の解消は、日本社会の長年の課題であり、日本人の精神構造が問われる問題でもある。

 
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