【地方再生・創生論 351〈最終回〉】クラブ活動の「地域移行」 松浪健四郎


 私は小学生時代から柔道を始めた。警察署の柔道場を借りて市民のクラブが運営され、そこで毎晩指導を受けた。専任の指導者が不在だったが、黒帯の年長者が教えてくれた。会費制で老若幼のメンバーが汗を流す。柔道部のある小中学校がなかったため、あちこちの学校から愛好者が集まって友だちになった。これらの体験は、公立中学校の部活動改革がスポーツ団体などに運営を委ねる「地域移行」の先例であろうか。問題は、指導者の資格と報酬である。教育委員会が主導すれば、ボランティアの人材に委ねることができない。

 教育的意義が高く、中学校のスポーツ系部活動のみならず、文化系のクラブ活動もある。これらすべてを「地域移行」できるのだろうか。スポーツ庁が掲げる3年間の「改革推進期間」は、スタートした2023年度が終了しようとしているが、全国的には「地域移行」が着実に広がりつつある。が、読売新聞の報道によれば、熊本市教育委員会は「学校部活動を維持させる」ことにしたという。教員の労働負担問題もあるが、民間のコーチを導入しつつ2027年まで「地域移行」を見送るらしい。

 熊本市には42の市立中学校があり、約2万人の生徒が通う。この生徒たちのクラブ活動を「地域移行」させるのは、問題が多くありすぎて市の検討委員会では手をつけることができなかったに違いない。大都市であればあるほど「地域移行」は困難が伴う。学校教育法施行規則に基づいて、自治体が「部活動指導員」を正規職員として採用することができる。教員に代わって部活動の指導に当たることもできるが、人材不足である。中途半端な職業に映るばかりか、将来性の保障もない。「外部指導者」として部活動の指導や引率、保護者への対応もできる正規職員だが、人材の確保は難しいと思われる。どうせなら、教員を目指す人たちが多数を占めるからである。

 熊本市の場合、「地域移行」を見送った背景には、「受け皿不足」があったようだ。どこで、誰が教えるか。町別、学校区別等々、調整が難しいに加え部活動指導員の確保は容易でない。しかもスポーツ競技にとどまらず、文化活動もある。すでに野球やサッカーなどのメジャースポーツは、各地でさまざまなチームがあり、中学校のクラブの部員減少が目立つ。有力高校の中学生スカウトは、以前よりさまざまなクラブ・チームから行っていて、中学校の部活動が空洞化している競技もある。バドミントンや卓球、テニスも同様であろうか。スポーツ庁の「地域移行」を先取りしている種目もある。が、そこには好きな生徒よりも上手な生徒が集う傾向にあるため、普及や教育的意義が重視されないのではないかと心配する。何よりも家庭の金銭的負担が大きくなるのは申すまでもない。

 中学校と中学校の間に立って調整するコーディネーターが求められる。校長や教頭だけでは難しい仕事である。中学校もいくつの学校をまとめればいいのか、競技種目の生徒数によっても「地域移行」が困難を伴う。コーディネーターを教育委員会が設置しなければ、合同の部(クラブ)を発足できないと思われるが、熊本市は設置すべくスタートを切った。しかし、地域によっては、「地域移行」を行わず、指導教員らを民間団体に登録する独自方式を採用する自治体もみられる。神奈川県の大磯町は、生徒や保護者の負担が増加する恐れがあるため、教員らの兼業を認めて「大磯方式」で現在の部活動を円滑に継続することにしたという。

 あまりにも地方格差がありすぎて、スポーツ庁の推進は順当には進まない。ただ、自治体の文化・スポーツ団体の協力を得ることができれば、「地域移行」を無理に進める必要はない。各教育委員会は、自治体に合った方法で中学校のクラブ活動を活発化させてほしい。大磯町のごとく、新しい制度を作って民間団体とコラボするのも一考であろう。やる気のある教員にも活躍できるようにすべし、だ。

(参考・令和6年2月7日付読売新聞)

 
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