【地熱発電の問題点 温泉クライシス7】温泉資源の保護について 大山正雄


 日本人は温泉大好き国民だ。温泉地の年間宿泊者数は明治時代初期に350万人だったが、交通と経済的豊かさの発展により今日では1億3千万人になり、ほとんどの温泉地がすでに温泉資源の開発限界に達している。このため温泉資源の枯渇化対策が長年の、そして今日の課題となっている。こうした課題を解決するため温泉法と都道府県の温泉部会の存在がある。そこでは温泉井の新規掘削や1温泉井当たり毎分100リットル前後の利用量などを審議し、温泉資源の保全に努めている。

 一方、地熱発電の熱水は浴用の温泉ではないとして、温泉の源をなす高温熱水の大量採取を制限されることもなく認められている。これでは温泉保全の努力が無駄となり、温泉部会が枝葉末節の審議の場となりかねない。

 現在の地熱発電能力は52万キロワットで、日本の総発電電力量の0・2%に過ぎない。しかしその発電に要する熱量は主要温泉地の総熱量より多い。国は地熱発電をさらに3倍から5倍にしようと計画し、2015年度予算で掘削などの調査費に80億円を拠出している。温泉関連の予算はほぼゼロだ。

 温泉利用がすでに限界に達しているので、地熱発電を倍にするだけでも各地で温泉枯渇が予想される。それに5倍にしても総電力の1%に過ぎず、大義名分の二酸化炭素削減の寄与率は極めて小さい。それにもかかわらず、全国の温泉地は大打撃を受けるだろう。

 日本の温泉の総熱量は石油で換算すると1年間に約500万トン、原油輸入量の約3%に相当する。日本人は地熱資源を古代から温泉としてよく利用している。

 地熱発電推進者は日本が世界第3位の地熱大国なのに熱資源量の45分の1しか利用していないとし、地熱発電に力を入れている火山国のフィリピン、インドネシア、アイスランドなどの例を挙げる。しかし、その世界第3位の地熱資源量とは再生可能エネルギーではなく、大部分が貯留されている化石熱資源量だ。また外国では温泉をほとんど利用しないので外国の例は比較にならない。

 そして、時々、地熱発電に反対するのは、温泉地域や温泉関係者のエゴだとか非国民との声が聞かれる。その時に思うのは、その方は温泉入浴をしないのだろうかと。例えエゴだとしても、温泉地があり温泉施設があるが故に温泉に入浴できるのだ。日本の総人口とほぼ同じ年間約1億3千万人の宿泊が示しているように、多くの日本人や訪日外国人観光客が楽しみ、女将などによるおもてなしを受け、そして保養の場ともなっている。

 温泉はその宿泊施設数が1万3千、温泉利用の公衆浴場数が約8千、土産物店や交通関係、それに宿泊客と日帰り客で年間3億人食分以上の食料の米、魚、肉、野菜などの生産、浴衣や敷布などのクリーニング、庭や建物の施設、旅行や温泉情報会社関連らを加えると100万人に達するであろう雇用と数兆円の広域な地域の産業経済を支えている。そのため電気も利用しているが、温泉好きをエゴとか非国民と言えるであろうか。

 温泉は発電に劣らず公益性を有している。無人化もできる地熱発電所が温泉地を危機的状況にしてまでの価値があるとは考えられない。

 政府は21世紀の日本を観光立国、そして地方創生を掲げている。日本の温泉の文化と産業は世界でも誇れるものだ。日本の温泉は日本人のみならず訪日外国人観光客にも人気の筆頭で、観光と地方創生の要でもある。温泉の保全と地熱発電の地熱開発には上記のことも検討が不可欠だ。

〈最終回〉

161203h

 
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