ウィズコロナ時代見据え「国際文化観光都市」目指す
東京スカイツリー(墨田区押上)は5月22日、開業10周年を迎えた。世界一高い自立式電波塔の開業は墨田の観光振興に大きな影響を与えた。墨田区の山本亨区長、東武タワースカイツリー・東武タウンソラマチの岩瀬豊会長兼社長、墨田区観光協会の森山育子理事長にお集まりいただき、10年の歩みや、ウィズコロナ時代の観光の在り方などを語ってもらった。司会は論説委員の内井高弘。(4月中旬、墨田区役所で)
――10年を振り返って、東京スカイツリー開業は墨田の観光にとってどんな影響を与えましたか。
山本 墨田区に生まれ育ち60年になりますが、まさか世界一のタワーが建つとは思いもしませんでした。決まった時はうれしかったですね。タワーが高くなるにつれて期待は膨らみ、大いに盛り上がりました。観光はもちろん、地域経済の活性化につながりましたね。
墨田は元々ものづくりのまちですが、東京スカイツリー建設を受け、ものづくりの文化を大事にしながら「国際観光都市」(現在は国際文化観光都市)を目指すという方針を打ち出しました。東京スカイツリーは世界的にもインパクトがあり、外国人を含めた多くの人に訪れていただき、”すみだ”ファンになってもらおうと。おかげさまで浅草と並ぶ国際観光都市になったと思います。
実際多くの人が訪れましたが、同時に人口も増えました。7年前に区長に就任した際、人口は26万人ほどでしたが、今では27万6千人となっています。
墨田区長 山本 享氏
――20年6月には「東京ミズマチ」がオープンし、それに合わせ、浅草エリアとスカイツリーエリアをつなぐ「すみだリバーウォーク」もできました。
山本 ミズマチは鉄道高架下複合商業施設で、浅草と東京スカイツリータウンを結ぶ新たなエリアです。隅田公園に隣接していて、北十間川に沿っています。回遊性をテーマに、まち全体のにぎわいと消費喚起を図っていきます。
――コロナ禍は観光をはじめ、いろんなところで影響が出ていますが、墨田にとってもダメージは大きいですか。
山本 これまで右肩上がりで成長してきた”すみだ”の観光ですが、ブレーキがかかっています。インバウンドもゼロベースで考えざるを得ません。墨田区観光協会や東武タワースカイツリーさんと協力し、収束を見据え、魅力ある観光都市になるよう頑張るしかありません。
――東京スカイツリーの来場者はどうなっていますか。
岩瀬 12年5月22日の開業ですが、初年度は東京スカイツリーが554万人、東京スカイツリータウンは4476万人でした。13年度は、タウンは3927万人とやや落ちましたが、東京スカイツリーは619万人と大幅に増えました。ちなみに、東京スカイツリーは21年12月27日に累計4千万人、タウンは同年10月26日に累計3億人を突破しました。
東武タワースカイツリー会長兼社長 岩瀨 豊氏
――コロナの影響はいかがですか。
岩瀬 休業などもあり、稼働日数が異なっていますが、19年度は360万人、2889万人、20年度は78万人、1626万人となりました。ここまで落ちるとは思っていませんでした。インバウンドについても3割ほどのシェアを占めていたのですが、消滅しました。ここ2年間は苦しい運営を強いられていますが、タウン来場者については、21年度は2千万人を超えており、持ち直しの兆しもみえます。
――今年5月22日に開業10周年を迎えます。
岩瀬 「SHARE MY SKYTREE TOWN もっともっと、みんなのスカイツリータウンへ。」をテーマに、スカイツリータウンの思い出の写真によるモザイクアート製作や、特別ライティングのデザイン募集、ゴールドリボンに願いごとを書いて皆で作る「ゴールドの木」など、楽しんでいただけるさまざまなイベントを企画、用意しています。
また、女優の福原遥さんを「リアルソラカラちゃん」として、東京スカイツリータウンの公式アンバサダーに起用します。
――観光協会にとっても東京スカイツリー開業は大きな出来事だったのでしょうね。
森山 追い風を感じました。区民を含め、多くの人たちは、墨田区はものづくりのまちと認識していましたが、東京スカイツリーができたことで国際文化観光都市に格上げされました。浅草から観光客が流れてきましたね。
最近はすみだリバーウォークを通り、東京ミズマチ、隅田公園そよ風ひろば経由で東京スカイツリータウンやスカイツリーに来てくれる人がすごく増えています。「墨田区は観光地」ということを区外からも言われるようになってきました。
一方で、東京スカイツリーから両国や向島、錦糸町までを含めた回遊ルートづくりは道半ばで、課題の一つとなっています。さまざまなイベントを企画、実施していますが、東京スカイツリーに訪れた人たちを”外”に出す仕掛けづくりが思うようにいきませんでした。
墨田区観光協会理事長 森山育子氏
――コロナ禍の影響は。
森山 東京ソラマチの中にあった「産業観光プラザ すみだ まち処」(現在は閉店)などの物販の売り上げもダウンするなど、厳しい状況ですね。
――区にはすみだ北斎美術館や両国国技館、江戸東京博物館など大小さまざまな観光施設に加え、ちゃんこ鍋や向島の料亭など誇るべき食文化もありますが。
森山 インバウンドが盛んな時は外国人観光客もこれら施設に足を運び、にぎわいましたが、コロナ禍でいなくなりました。また、両国などは元々シニアのお客さまが多く、こちらも外出自粛で客足が落ち、結局、軸となる二つのターゲットがなくなりました。しかし、京葉道路沿いはコーヒーストリートと言われるほどカフェができ、若い人は増えていますので、この動きをより確かなものにして、イメージチェンジを図るのが急務です。
――区は昨年9月、ものづくりのまちを国内外にアピールする目的で09年から行っている「すみだ地域ブランド戦略」を見直すと発表しました。
山本 12年ぶりのリニューアルです。戦略の一つに「すみだモダン ブランド認証」がありました。区内で生まれ、高付加価値の商品や飲食店メニューを発掘するもので、認証数は約200件に達しました。本区の知名度向上とイメージアップに、一定の成果をあげたと思っています。
一方、近年、消費者の購買活動は商品の機能やデザインなどの「見た目重視」から、事業者の理念や職人の思いなど「ストーリー性重視」へ価値基準が変化しています。さらに、SDGs(持続可能な開発目標)や社会課題の解決などに取り組む事業者が増えていることもあり、その対応も含めて地域ブランド戦略のリニューアルを行うことにしました。
――具体的には。
山本 「すみだモダンパートナーシップ」の導入です。すみだ地域ブランド戦略の理念に賛同する事業者とパートナーシップを結び、区はこれら事業者が自由に参加できる場を定期的に提供し、新たな異分野連携やイノベーションを誘発する機会を創出します。
このほか、優れた新商品を開発するため、クリエイティブディレクター統括による、デザイナーと事業者による複数のコラボレーションも実施します。
――観光振興との関連性は。
山本 そうした取り組みで生まれた良い商品を手に取って、知ってもらうのが何より重要です。東武タワースカイツリーさんや観光協会には販売スペースを作っていただきたい。商品を購入するかたわら観光していただければ一石二鳥です。
森山 全面的に協力します。協会はたくさんの人を集め、地場製品の購入や飲食店などを利用してもらって活性化を図るのが主な仕事です。物販についてもノウハウがあり、仕入れや販売、契約などのワンストップ窓口の機能を持っています。修学旅行の受け入れや旅行会社との相談にも応じています。
――ものづくりの工程は体験型観光に適していますね。
森山 年1回、11月に「すみだファクトリーめぐり」が開催されていますが、墨田区観光協会でも着地型の産業観光ツアーの造成を行っています。革製品一つをとってもなめしや加工などさまざまな工程がありますので、ツアーは造りやすい。SDGs関連のツアーも計画しています。
――コロナ禍は収束の気配を見せず、ウィズコロナで社会経済活動を考えざるを得ません。区長として今後どうかじ取りを。
山本 国際文化観光都市の姿をしっかり思い描き、何をすべきかを考えていく。本区は祭りが盛んな土地柄で、牛嶋神社大祭などはとてもにぎわいます。日常が観光資源であり、ブラッシュアップしながら観光客を迎える環境づくりに努めたい。
東京スカイツリーの開業でまちは大きく変わりました。隅田公園も奇麗になり、週末には多くの人でにぎわっています。東京ミズマチ周辺は、若い人々にも多く来ていただけるようになった。
コロナ禍で失ったものは多いですが、嘆いてばかりもいられません。反転上昇に向けた仕込み期間と捉え、観光資源をブラッシュアップします。国際文化観光都市実現に向け、すみだ北斎美術館の売り込みや隅田公園の2期工事など、スピード感をもって取り組んでいきます。
岩瀬 浅草と東京スカイツリータウン、そしてすみだリバーウォークと東京ミズマチという二つのエリアを一体化して、伝統文化と先進性が融合した観光地を目指したい。
滞在時間を延ばしてもらうのも課題です。東京スカイツリーに上った後は両国などを見てもらい、夕方にはスカイツリーに戻って夜景を楽しんでもらえるような工夫も必要と思います。
森山 皆さんと話し合いながら、持続可能な観光地経営を目指したい。訪れてみなければ墨田区の良さは分からない、その仕掛けづくりに取り組みます。今まで以上に東京スカイツリーや東京ソラマチと連携し、イベントを開催するとともに、回遊性のあるルートを作り、情報発信をしていきます。