お宿の理念や方針で、「お客さま第一主義」を掲げているところは、かなり多いのではないでしょうか。
あるお宿では、月次の幹部会や毎朝の朝礼で、必ず最初にお宿の経営理念である、「私たちはお客さま第一主義を実現します」と唱和しています。
幹部会の後ある幹部に、「ところでお客さま第一主義とは具体的にどのようなことなのですか」と質問しました。その幹部は戸惑いながら、「そんなこと聞かれたことはなかった」との回答。
お宿を展開していく上で、お客さまとの関係性や、お客さまに対する姿勢を重視することは、もっともなことです。だからお宿の理念や方針で、「お客さま第一主義」を明記することは正しいことです。でも残念なことに、理念や方針の言葉だけで終わっているケースが実に多いのです。
どのような理念や方針を掲げようとそのお宿の自由です。ただ、せっかく掲げた理念や方針なのですから、単なる言葉だけで終わらせるのではなく、お宿の行動指針にしていかなければもったいないでしょう。
行動指針といってもまだまだ抽象的ですよね。現場のスタッフが、毎日行動できるように、動作レベルにまで落とし込むことが大事です。
例えばフロント係であれば、どのようなお客さまにどのような場面で、どのようなことができていれば、わが宿のフロント係は、お客さま第一主義が実現できていると言えるのでしょうか。
この事例のように、お宿全体で掲げたお客さま第一主義は、そぎ落とした共通の言葉です。それが部門ごとにあるいは場面ごとに、お客さまごとに、全てのスタッフが行動基準や業務フロー、あるいは特定の場面で、どのように対応していきますか。部門長が中心となってワーキンググループを作り、部門内で取りまとめてみてはいかがでしょうか。
中には、お客さまと接することのない部門では、イメージをつかみづらい場合があります。例えば用度係。扱っている品物が欠品したらどうでしょう。不備な品物があったらどうでしょう。そもそも今の備品消耗品のままで良いのでしょうか。お宿で使用する備品消耗品の発注、納品、検収、保管、そして各部署への出庫に至る一連のプロセスは、お客さまの不満や不安を抱かせないことはもちろん、お客さまの満足に貢献する要素があることを認識しましょう。これはバック部門においても立派なお客さま第一主義に結びつきます。
経理や総務はどうでしょう。従業員が安心して働ける環境や安定した財務体質は、お客さまに接するスタッフのサポート役として極めて重要です。
この場合、お客さまの定義を広げ、次工程の部署をお客さまと定義すると分かりやすいです。
ほかから借りてきた言葉を唱和するだけでなく、全てのスタッフがお客さま第一主義を毎日実践している。第一主義というのは、お客さまの言うことを全て無条件で受け入れるという意味ではありません。どの部署においても、「お客さまは」という言葉を主語にして仕事の価値を定義していきましょう。そしてスタッフ全員が常にお客さまを起点として、各自の仕事をレベルアップしているという状態にもっていきましょう。
そのためのステップを経営者であるあなたが設計し、その意義を伝え、実行することにより、とても意義のあるお客さま第一主義が、あなたのお宿で実現することが可能となります。
失敗の法則その29
お客さま第一主義と会議で唱えているだけ。
その結果、お客さまとはかけ離れたお宿になっていく。
だから…全スタッフが腑(ふ)に落ちるまで、あなたのお宿におけるお客さま第一主義を、行動に落とし込め。