あなたのお宿では、料理献立は年に何回変更しますか。年4回四季に合わせてというお宿や、月替わりで献立を変えているというお宿もありますね。
今回は献立変更にあたって、事前に経営者が試食をするケースについてみていきましょう。
試食会では出席者がそれぞれ料理の感想を述べて終わりというパターンが多いようです。ほとんどセレモニー化していますね。あるお宿の経営者は、お客さまからの大きなクレームはないし、口コミ点数も合格圏内をキープしているので、このパターンでいいと思っているとのことです。だから、細かいことは現場サイドに任せてよいというスタンスです。
では次に、別のお宿での試食会の方法をご紹介します。
試食会はお客さまに提供される食事処で行います。料理の説明は調理長が行い、料理提供は接客係が順番に担当します。出席者の手元には料理献立はもちろんのこと、献立原価表も同時にセットしておきます。
献立原価表の中身は、先付から始まる品ごとに食材名、ロット価格、使用量、提供単価(原価)を一覧表にし、一品ごとの原価額を表示します。そして最後にコース全体での原価総額が表示されます。調理長は新しい献立の試食会では、料理の提供とともに原価表明細も同時に提供する決まりにしておくことがポイントです。
何もそこまでやる必要はないじゃないか、と思いますか。お宿ではコースごとに料理売価額、料理原価額が決められていますよね。ならば料理献立を変更するのであれば、新しい献立もこの枠に収まっていなければなりません。だから料理長は原価額の根拠をこの場で提示すべきなのです。多分大丈夫だろう、では済まされません。このまま進んで、もし原価額が大きく上振れするようなことがあれば、大変です。
ある現場では、その年限定で受注した募集ツアーの料理原価コントロールを怠った結果、大幅な粗利ロスが発生したことがありました。
話を元に戻します。試食が進み、経営者は調理長を意識しているのか、おいしいとしかいいません。ここでは経営者個人のうまいまずいなんてどうでもいいのです。なぜ経営者が試食の場にいるのか、考えてみましょう。経営者はお宿のお客さまに代わって試食しているのです。あなたのお宿で提供する料理として、これから提供しようとしている料理は、ふさわしいかどうかを審査しています。想定しているお客さまにとって、量はどうか、味付けはどうか、見栄えはどうか、コースとしてメリハリはどうか、お品書きの記述方法はこれでよいのか等々、多岐にわたるチェックポイントがあるはずです。
もしそぐわないものがあれば、修正や変更を指示しなければなりません。食材変更ならば原価も変わる可能性があります。だから原価表が必要なのです。
これらのことを、思い付きで行うことはできません。だからあらかじめ経営者と調理長との間で、これら一連のチェックポイントについて事前共有がなされるのが前提です。
これは料理旅館や高額の宿に限ったことではありません。料理原価がぶれても構わない、宿に合わない料理が提供されてもいい、調理人と経営者の意思疎通は不要、宿の料理は料理人に丸投げでいい、等と考えるお宿はありません。
料理提供の責任は、調理長ではなく経営者です。だから入念な事前共有と、料理試食会における役割分担を経営者が主導して作り上げる必要があります。
失敗の法則その32
料理献立の変更は料理長に丸投げしている。
その結果、食材原価や、料理に関して口をはさめない。
だから、経営者が責任をもって献立変更を仕切っていこう。
https://www.ryokan-clinic.com/
(観光経済新聞12月2日号掲載コラム)