中小規模のお宿の中身は、経営者の思考と行動で全てが決まります。スタッフ全員が経営者を注視し、経営者の思考を踏まえた行動をとるからです。
だから経営者は自分の影響力がお宿の中ではとても大きいのだという認識を、しっかりと持ってください。これは経営者だから地位が高いとか偉いのではなく、責任が重いということです。そしてその思考と行動の結果が、お宿の評価や経営成績に直結してきます。
だから何か問題が発生してもスタッフのせいにしないでください。スタッフの行為が原因であったとしても、それをコントロールできなかった結果が、事象として表れていると認識すべきです。
ではこのような前提に立った上で、経営者はどのような思考と行動が必要なのでしょうか。お宿への思いや、お客さまやスタッフ等ステークホルダーに対する理想像について幹部にしっかりと伝え、その考えを全体で共有することが必要だということを、先週のコラムで書きました。
経営者の思いを言語化し伝えることができていないお宿は、確実にぶれまくっています。
さてお宿ではスタッフに関わる問題が発生すると、そのスタッフにフォーカスし、解決を図ろうとします。かすり傷程度ならそれでいいのですが、原因が根深い傷、繰り返される傷に対しては、治療方法が異なります。
では経営者がスタッフの根本的原因をどうやって見つけ出し、改善を図っていけばいいのか。そもそも根本的なことを言い出せば、その人の生い立ちや育った環境、その人独自の思考に言及することになります。大変ですね。
ではどうするか。徹底的に一人一人のスタッフと分け隔てなくお話をしてください。短時間でもいいので毎日仕事に関すること、プライベートのこと。何でもお話しすることです。スタッフから上司である部門長や支配人、経営者に対して積極的に話しかけてくる人は少ないでしょう。できればあまり関わりたくないと思っているはずです。
そのことを何となく感じ取っている経営者はスタッフとのバリアを自らも作ってしまいます。だから必要最低限度のことしか話さない。それで日常業務がうまく回ってくれればいいと思ってしまいます。
そのような現場で特定のスタッフが原因だと思われるトラブルが、何度も発生しているとします。経営者はそのスタッフとは普段ほとんど会話がありません。どのような人なのか、なんとなく分かっている程度です。
そのスタッフに対しては、いけないことはいけないとはっきり伝え、同時にその理由をしっかりと伝えなければいけません。ところが普段コミュニケーションが取れていない人には、とても言いにくいですよね。いきなり退職されてはもっと困る。このようなジレンマが続いている経営者は多いはずです。
自分はその役は嫌だと幹部に任せてしまう。幹部は仕方なくそのスタッフに注意するが、幹部とスタッフの関係性も希薄なので、現場サイドでますますぎくしゃくしてしまう悪循環に陥ります。
中小零細のお宿では、組織が脆弱(ぜいじゃく)です。支配人や部門長という肩書があっても実際にその役割をこなしているかどうかがとても重要です。もし役割をこなすことができていないのなら、経営者がその部門長に任せっきりにしないで自らスタッフの指導をしなければこの問題は解決しません。
だから日常的に経営者自らスタッフ全員に向き合い、寄り添うことが必要なのです。これを実践しているお宿はとても結束力が強いですよ。
失敗の法則その34
経営者とスタッフとの会話が少ない。
その結果、人に関するトラブルが絶えず、解決の糸口が見えない。
だから、普段から経営者自らスタッフとの会話を増やしていこう。
https://www.ryokan-clinic.com/
(観光経済新聞2024年12月16日号掲載コラム)