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会社は赤字でもつぶれないが、資金がショートすると簡単につぶれる。よく聞くフレーズです。決算書や試算表の数字は経営成績を表す通知表だと、さんざんこのコラムで書いてきました。しかし実感がそれほど湧かないと思ったことはありませんか。
これに対して、預金通帳の残高は現実そのものです。経営者が一番気にすべき数字は、あなたのお宿の預金通帳残高です。だから、今月末の残高はもちろん、今後どのような推移でこの数字が動いていくのか、少なくとも常に3カ月先まではいつでも見えていることが、必須です。
では、この先、預金残高の見込み数字はどこを見れば分かるのでしょうか。そうです、資金繰り見込み表です。あなたの手元に3カ月先までの資金繰り見込み表がありますか。3カ月先までの残高が見えていますでしょうか。その3カ月先までの資金繰り見込み表と、各月末の残高実績を見比べてください。そこには差が出ます。その差異の原因を勘定科目ごとに調べてください。
ところで経営者は数字の結果だけを見ればいい。その数字が計画見込みと差があれば、その原因を担当責任者から報告を受け、これからの軌道修正の意思決定をするのが経営者の役割だ。細かいことを調べるのは経理担当者に任せればいい、という意見があります。正論だと思います。
正論ですが、大企業ではないあなたのお宿では、数字の結果だけを見ていては、知らないうちに裸の王様になってしまいます。毎月数字の詳細を追っていく必要はありませんが、ぜひ、ひと月でもいいので、数字の推移を自ら追ってみてください。
収入は現金収入と前月のクレジットやエージェント清算金額です。月末の売上日報の累計データと、各社から送られてくる精算表を照らし合わせれば分かります。
問題は支出です。単純に時系列を見るのであれば、毎月の通帳残高を月別に列挙し、さらに月初残高と月末残高の差額を記入した一覧表を作ります。これを3年間ほど並べれば、傾向が見えてきます。その時に借入を行ったとか、まとまった支出があれば、それを脚注に記述しておけば、なおさら振り返りがよくできます。
さらに次のステップとしては、毎月、試算表とともに税理士事務所から提示される総勘定元帳と補助簿を、通帳とともに確認してください。金額だけでなく相手科目名や摘要も記述してありますので、さらに中身が見えてきます。
さあ、このコラムをきっかけにしてすぐ始めてください。総勘定元帳や補助簿は、経理担当者しか見たことがないという経営者の方もこの際ご覧ください。
どうですか。何のことか分からない支出や相手先があったのではないでしょうか。これは全て経営者であるあなたが、過去に決裁した相手と金額なのです。
ひと月の支出先と金額は、全て納得のいくものですか。ちなみに不明なところを赤線でチェックしてみてください。そしてそこの請求書を請求書つづりから引っ張り出して、経営者自身が詳細を確認してみてください。請求書の元となっている、契約書を見直すことも役立ちますよ。
収入を増やすことよりも、支出コントロールは一番手が付けやすく、効果が出るアプローチです。今まで幹部会で「無駄な支出をなくせ」としか指示できなかった方が、この見直しを行えば、「面倒だったけれど、一通り支出内容を見てよかった」と、かなりの方が思うはずです。
失敗の法則その40
資金繰り見込み表は残金が一定額あればいいと思っている。
その結果、最も重要な現預金の中身や推移にうとくなってしまう。
だから、支出の詳細内容に経営者自ら一度目を向けよう。
https://www.ryokan-clinic.com/
(2025年2月10日号掲載コラム)