
ある地方の温泉旅館経営者とお話ししました。大都市圏からはかなり遠方に位置します。かつては近郊都市の奥座敷と呼ばれ、接待や宴会、グループ旅行等広く利用されていました。
しかし今はその都市自体の人口減少が収まらず、産業は衰退傾向。街の歓楽地も閑古鳥が鳴いています。接待や宴会どころではない、切実な状況です。
長く歓楽温泉地として栄えてきたこの地の温泉宿は、環境変化に対応しなければだめだとか、団体から個人へシフトしなければ生き残れないとかは、十分承知しています。
このお宿でも、宴会場を個人向けの食事処にリニューアルし、貸し切り風呂の設置、客室にベッドを入れ、ハード面での整備を進めてきました。
それでも当時の売上高から見ると4割近く減少し、財務的にかなり疲弊してきました。
このお宿の経営者は、大都市圏の温泉旅館はうらやましいと言います。競争はそれなりに厳しいが、交通アクセスはいいし、高単価も取れる。商品力さえ他館に負けなければそれなりの成績は残せるだろうとの見解です。
要はいくら商品力があっても大都市圏からのお客さまは、交通アクセスが不便であれば、これが最大のネックとなり、旅館の中身以前に、この温泉地自体が宿泊候補地にあがらないとのこと。
では、地元のお客さまはどうかというと、低価格が一番の判断材料になってしまい、利幅が非常に少ない。結果として疲弊するばかりだと言います。
それに輪をかけて食材費の高騰と従業員の休暇取得のため、休館日の増加が重なり、利益を生み出す対質には程遠くなっています。
この一連のメッセージを聞いていかがでしょうか。うちも全く同じだという多くの声が聞こえてきそうです。
このお宿は施設、料理、サービスの口コミは高評価をずっと維持しています。今までは提供商品のコンテンツを高品質に保ち、販促媒体に他館と同様にお金をかけてアピールしていけば、経営を維持できたのかもしれません。
しかしこれらは当たり前、つまり前提条件となりました。コンテンツが良いと評価されるお宿はたくさん存在します。販促媒体であるホームページの出来もみな素晴らしいのです。OTAやSNS対策も同じです。
だから結局立地の差だという結論に至ったのでは、そこで全てがストップしてしまいます。ここからが分かれ道です。
立地が悪くても、経営状況が良いお宿はあります。逆に立地が良くても経営状況が悪いお宿はいくらでもあります。自分ではどうすることもできないことは、考えるだけ無駄です。お客さまがいくつものお宿を通り過ぎ、交通費をかけて、時間をかけて、労力をかけてまで泊まりたい宿を目指さなければいけません。
あなたのお宿のメイン客層にささるパフォーマンスは何でしょうか。お客さまが共感する瞬間は何でしょうか。わざわざあなたの温泉地、お宿に行かなければ体験できないものは何でしょうか。それをお客さまが実感できるようなレベルにまで、商品構築を進めているでしょうか。
繁盛旅館のまねをしただけで、スイッチが切れていませんか。同じようなお宿なら、わざわざ遠くまで行く必要がありません。
お客さまは自分が行くべきお宿かどうかを瞬時に判断します。だからあなたの宿の経営資源(リソース)を、お客さまが理屈抜きで共感するレベルにまで具現化することを、最優先に取り組みましょう。あなたがぜひ宿泊してもらいたいお客さまが、どうしても泊まりたい宿になりましょう。
失敗の法則その44
いい宿づくりをしてきたが、立地が悪いせいで集客できないと考えている。
その結果、思考がストップし、経営状況の悪化が続いていく。
だから、お客さまにどうしても泊まりたい宿づくりに懸命に取り組め。
https://www.ryokan-clinic.com/
(観光経済新聞2025年3月10日掲載コラム)