
お宿の経営者とお話ししていると、三つの経営者像に直面することがあります。
まずは未来のビジョンについて熱く語る経営者。次に今直面している問題についての悩みで頭がいっぱいの経営者。そして過去の話しかしない経営者。とりわけ過去の成功体験を何度も自慢げに話す経営者は、この成功体験が今を支配しているかのようです。
このタイプの経営者は現場の課題を解決しようとする場合、ゼロベースで丁寧に原因を分析して解決策を探るのではなく、過去の成功体験から解決方法を引っ張り出そうとします。とにかくショートカットで課題解決を図ろうとしますので、この方法で解決することができれば、とても効率的ですね。
では成功体験とはドラえもんのポケットのように、伝家の宝刀なのでしょうか。目の前の課題解決策として、再現性はあるのでしょうか。
ところであなたの成功体験はそれぞれどのくらい前のものか。その成功はあなたの能力や意思決定だけが原因で成功したのか。たまたまいい風が吹いていたとか、思わぬ助けが入ってラッキーだったかもしれませんね。でもそんなことはとうの昔のことなので、忘れてしまっています。
実に単純な目の前の課題解決だったら成功体験というよりは、経験の蓄積による引き出しから、解決方法を引っ張り出すことで対応が可能でしょう。
しかしもっと複雑で外部要因や環境が違う背景がある場合、無意識に実行しようとする過去の成功体験は、思わぬ落とし穴となります。特に過去を自慢げに語る人は要注意です。
そこで注目すべきは成功ではなく、過去の失敗体験です。経営者の仕事において、意思決定の失敗体験というのは触れられたくない、思い出したくないことです。ですが、これは再現性が高いのです。
はたから見ていて、同じような意思決定をして同じような失敗を繰り返している人を、見たことはありませんか。まるで失敗というゴールへ、吸い込まれるように走っているようです。
自分は失敗したくない。その失敗はもう嫌だと言葉で発していながらも、行動は失敗のプロセスを着実に歩んでいる。何とかしたいですよね。また同じ過ちを犯してしまったと気づく場面があったなら、このパターンに陥ってしまっているかもしれません。
では失敗体験のプロセスを振り返ってみましょう。まず一連の流れを丁寧にひも解き、どの場面でどのような意思決定をしたのか。その結果どのようなことが起きたのか。それは正しい意思決定だったのか。もしノーならばどうすべきだったのかです。
このように失敗したと思った時は、冷静にプロセスを振り返り、判断ミスをした箇所を突き止める。そしてこの場面ですべきだった判断とは何かを導き出し、意思決定のプロセスを修正するのです。
私が中学生のころ、テストで赤点を取った時には、親にも内緒にして内容を振り返りもせず、そのテスト用紙を捨てた記憶があります。当時の先生からは、どこが分からないのか、どこから分からなくなったのかを振り返りなさい。分からないポイントを見つけたなら、あらゆる方法を使って疑問点を解決し、繰り返し反復しなさい。記憶よりも理解だと教わりました。
もう中学生のテストを受けることはありませんが、この教えはそのまま宿の経営に生かすことができます。
失敗の法則その47
失敗体験は振り返らず捨ててしまう。
その結果、同じような失敗を繰り返してしまう。
だから、失敗体験を丁寧に振り返り、間違ったところを突き止め、正しい意思決定とは何かを見つけよう。
https://www.ryokan-clinic.com/
(観光経済新聞2025年4月7日号掲載コラム)