【学術×現場 23】旅館はガラパゴス化しているのか 外国人宿泊客の9割が満足と回答 福島規子


 最近、旅館がガラパゴス化あるいはたこつぼ化の一途をたどっているという批判をよく耳にする。

 1泊2食が主体の旅館では、滞在期間が長い外国人観光客の受け入れは難しい。特に、ネックとなっているのが滞在中の食事問題。品数も、量も多い旅館の夕食は一度、食べれば十分。食材で工夫した2日目は何とか食べ果たせたとしても、3日目、4日目と食べ続けるのは至難の業という。インバウンドに関わっている有識者の中には「旅館に泊まりたいという訪日外国人客には、正直、やめなさいと言っている。日本文化や風習を体験するために泊まるとしてもせいぜい1泊が限界」と言い、旅館には訪日外国人客が快適に過ごせるような機能が欠如していると指摘する。

 だが、実際にそうなのだろうか。

 観光庁の「インバウンド消費動向調査結果及び分析」(2024年7月―9月期報告書)によると「今回の日本滞在中にしたこと」(複数回答)として22.7%の1329人が「旅館に宿泊」を挙げ、うち93.8%が満足したと回答している。また、「温泉入浴」については、4人に1人の25.5%(1480人)が体験し、うち94.7%が満足したと回答している。

 「旅館に宿泊」「温泉入浴」の調査結果に基づけば、温泉を有した「温泉旅館」は、日本の文化や風習を知りたい訪日外国人客にとっては格好の宿泊施設となる。

 しかしながら、冒頭の有識者が指摘するように長期滞在客向けのメニュー開発は、遅々として進んでいないのも事実である。週末や休前日にのみ泊まりにくるような日本人客だけを相手にしていると、海外の旅行者からそっぽを向かれてしまう。この「日本人による、日本人のための旅館経営」が、旅館のガラパゴス化、たこつぼ化を招いていると口さがない人々は言うのである。

 だが、国内でもワ―ケーションや休日取得の分散化などに伴い、滞在型観光の萌芽が見られつつある。客室にミニキッチンを備えたり、宿泊客が自由に調理や食事ができる共有スペースを設けたりといった宿泊施設が話題になるのもその一端と言えよう。

 確かに、「旅行に来てまで料理なんかしたくない」とこぼす顧客もいるだろう。しかし、暮らすように旅したいと考える滞在客であれば地元のスーパーで食材を買い、旅館の料理人に調理法を教わりながら一緒に料理を作るといった企画があれば率先して参加してくるに違いない。

 ほかにも、地域の料理好きの人たちを集めてチームを作り、外国人観光客や日本人の滞在客らと一緒に、料理を作って食べるといった交流を兼ねた夕食会を催す方法もある。また、出来上がった料理は地元作家の器や老舗旅館が代々受け継いできた塗碗といった「ほんもの」の器に盛り付ける。作り手の思いが込められたり、伝統や歴史を感じさせたりする「ほんもの」の器には、量産された業務用食器にはない特別な価値がある。

 旅館のガラパゴス化を阻止するためには、人を集め、献立を考え、「ほんもの」の器を一括管理した上で地域の旅館に貸し出していくような、視点を変えた新たな取り組みが必要だろう。

 福島 規子(ふくしま・のりこ)九州国際大学教授・博士(観光学)、オフィスヴァルト・サービスコンサルタント。


(2025年2月10日号掲載コラム)

 
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