今回のパンデミックは、人々のパーソナルスペースにまで影響を強く与えていることは以前ご紹介いたしました。顧客がスタッフとの距離感として1.5メートル近くを望ましいと捉えているという弊社の調査結果でした。この結果を受けて全ての顧客接遇に3密を避けるべきだという結論ではないと考えています。その理由を以下、新たな調査結果からご説明したいと思います。
今回の恐怖心が上記パーソナルスペースだけではなく、心理的時間にも影響を与えた可能性があるのではと考え、新たに時間評価を調査しました(全国200名に対する調査、弊社・弊協会調べ)。人はさまざまな環境、感情、その他、刺激内容の影響を受け、無意識のうちに時間知覚および時間評価を行っています。時間知覚とはまさに「今」どのように時間が進んでいると感じるかであり、一方で時間評価は、5秒以上のスケールで記憶も介在しつつどれほど長くあるいは短く感じるかを示したものです。
今回の調査では10秒を心理的に計測してもらい、実際の10秒との違いを全国男女200名に対して行いました(10秒産出法と言います)。計測する時間帯は昼間とし、また外部刺激がなくリラックスした状態にて計測を行いました。
通常であれば、昼間は10秒より早めにストップウオッチを止める、つまり心理的時間が実際の時間より早い傾向が見られるはずです。逆に夜間であれば、心理的時間が実際の時間の進みより遅く、10秒を超えてストップウオッチを止める傾向が指摘されています。昼間であれば、意識がさまざまに分散しやすく、時間に注目が向きづらいことから、心理的時間が早く、夜間であれば逆に刺激が少なく、ゆっくり時間が進んでいる感覚を覚える傾向が指摘されています。
また嫌な体験や危険を察知していると時間が長く評価されます。長く感じる中で回避行動をより多くとるチャンスを作ろうとするのです。逆に楽しいことが目前にあれば、時間は早く感じられます。早い時間でほしいものを確保しようと努力するためです。
そこで今回の調査結果を見ますと、上記とは全く逆の結果でした。昼間の計測であるにも関わらず、心理的時間の速さが実際の時間の進みより遅く、10秒を超えてストップウオッチを止める人が多いことが分かりました。実際の10秒に対して平均値10.58秒にてストップウオッチを止めていました。男性では平均10.57秒、女性では平均10.59秒という結果です。年齢による差はほぼなく、20歳から60歳代まで同様の結果が見られました。
ここから運営上、重要なポイントが2点ほど浮かび上がります。一つにこのような傾向を示すのは、過去に執着している人に多く見られる点です。過去の失敗、過去の恐怖心等の過去のネガティブな記憶が呪縛として影響し、たとえ昼間であっても時間が長く感じられるのです。
多くの人が、通常昼間であれば上記の通り10秒を下回って心理的時間の方が早いはず。今回の調査結果から年齢、男女に関わらず逆転しているということは、それほど現在不安感を抱いている証左と考えられます。つまりわれわれは顧客の不安を払拭するようなオペレーションを意識して取り組む必要があるということです。
上記の3密を避けるオペレーションを徹底してしまいますと、確かに感染という恐怖心は薄まるかもしれませんが、根底にある不安感は払拭できません。安心感を与える特効薬は「笑顔」なのです。お客さまが安心できる空間の中で笑顔をしっかりとお伝えすることこそが今後非常に重要であるはずです。
もう一点、時間が長く感じられるということは、例えば予約時の電話対応であれば10秒待たされると30%以上の人がストレスと感じます。この10秒が心理的に10.6秒に感じられる、つまりより長く感じてしまう可能性があるのです。朝食の待ち時間、エレベーターの待ち時間、チェックインやアウト時の待ち時間等、物理的な時間とは別に心理的な時間では一層長く感じさせてしまうかもしれないのです。
安心していただき、かつストレスを与えない迅速性を強化する取り組みを組織として検討することが市場回復期に向けた重要な対策の一つとなるはずです。