【寄稿】名古屋は北陸の一部? 台湾ツアーの実態 観光学者・ツーリズムデザイナー 山口一弥 


昇竜道

名古屋は北陸の一部? 台湾ツアーの実態

 三重県のとあるエリアのインバウンド誘客の仕事を手伝っている。中部国際空港への便数や温泉への親和性もあること、しかも、ついに1人あたりGDPでは日本を抜く見通しの台湾をターゲット国に据えることになった。そこで、台湾の旅行会社のホームページで日本へのツアー商品を調べていて驚いた。何と、名古屋が北陸エリアとして取り扱われているからだ(図1)。

【図1】

 

出典:https://travel.liontravel.com/category/zh-tw/japan/index

出典:https://www.colatour.com.tw/C000_Portal/C000_HP01A_Main.aspx?TourArea=A

 

 例えば、 台湾最大の旅行会社ライオントラベル(雄獅旅游)のホームページで名古屋を選ぶと、名古屋に夜到着して、翌日から恵那峡、黒部・立山、金沢、白川郷、高山、犬山城を巡って名古屋に戻る5日間で41,999台湾ドル(約208,300円、1台湾ドル4.96日本円、7月7日現在)と決して安い旅行ではない。他にも、名古屋到着後、翌日から高山、上高地、奥飛騨、黒部、金沢、白川郷、伊勢神宮を巡る6日間で38,999台湾ドル(約193,400円)といった具合で基本的に名古屋は黒部、金沢、白川郷のゲートウェイという扱いだ。他のツアーを見ても白川郷や黒部・立山は鉄板の人気の様だ。或いは中部国際空港で発着するにも関わらず実態はユニバーサルスタジオと京都を巡るツアーだったりする。しかも大体、5日前後のツアーで日本円で20万円以上と決して安くないツアーが多い.。

 

 名古屋がどうして、このように北陸の一部になってしまっているのだろうか。原因はいくつかあるだろうが、一番大きいのは名古屋市或いは愛知県が観光を軽視している現れでないだろうかと思う。高山市や白川村或いは岐阜県が名古屋市や愛知県以上に頑張った成果なのかもしれない。実は平成24年にいわゆるゴールデンルートに対抗するモデルコースとして当時の中部運輸局が名古屋を起点に高山、白川郷を通って、黒部・立山から金沢、能登にまで抜けるルートをまるで龍が天に昇る様に見立てた昇龍道プロジェクトが定着を見せたのかもしれない(図2)。台湾の人たちは龍は縁起いいので大好きだ。

 

【図2】

 

 

出典:https://wwwtb.mlit.go.jp/chubu/kikaku/syoryudo/route/route.pdf

 

急がれる名古屋および周辺地域のインバウンド向けコンテンツ開発

 訪日ラボの調査結果(図3)からはコロナ前の2019年とコロナ後の2023年の外国人延べ宿泊者数の比較を行っているが、沖縄県と愛知県のインバウンド旅客数の戻り率の悪さが表れている。率でなく絶対数でも愛知県は福岡と伍していたのが、神奈川県にも抜かれてしまっている。

【図3】

 

 

出典:https://honichi.com/news/2023/10/16/inbound-prefecture-ranking/

 

 名古屋市および1時間以内の周辺エリアには中心部の熱田神宮や名古屋城のほかに、犬山城、明治村、ジブリパーク、レゴランド、ナガシマリゾートといった観光資源も揃う。

 中でも注目したいのが、熱田神宮および周辺エリアである。熱田神宮はいうまでもなく中部圏最大の初詣客を集める神社で天皇家ゆかりの三種の神器のひとつ草薙の剣をお祀りしており、刀や刃物の聖地でもある。周辺地域の宮宿はかつて東海道唯一の海路の発着地であると同時に東海道最大の宿場町でもあった。残念ながら、第二次世界大戦の空襲によって往時の面影を探すことは難しいが、周辺には老舗も残っている。現在、名鉄の基幹駅のひとつでもある神宮前駅は再開発の真っ最中で今後、インバウンド向け観光客へのコンテンツ強化も狙っている。そんな中、御茶の「妙香園」、お菓子の「きよめ餅」「亀屋良長」、ひつまぶしで有名な「あつた蓬莱軒」といった宮宿ゆかりの老舗の若旦那たちによって結成された「あつた宮宿会」が中心になって熱田神宮周辺地域の活性化に取り組む動きも出てきている。

 名古屋はもちろん、名古屋めしといわれる独自の食文化も魅力だが、尾張徳川家の庇護のもと京都や江戸とは一線を画す独自の文化も醸成されてきた。例えば、茶道では織田信長の弟の織田有楽斎を始祖とする「有楽流」や「松尾流」の家元があったり、実質日本に二派しか現存しない香道の「志野流」の家元も名古屋で守られてきた。ここにきて名古屋は北陸の一部から抜け出すためにも愛知と三重の二県で連携して「東海」或いは「中部」エリアをアピールしていかなくてはならないのではないだろうか。

 
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