【対談】旅館ホテルはキャンセル料回収をどうするか? Payn 山下CEO × コアグローバルマネジメント 堀口執行役員


キャンセル料の請求、回収、管理を自動化

 キャンセル料請求にかかる業務負担、キャンセル料の未回収による損失など、キャンセルをめぐる課題に悩む宿泊事業者は少なくない。これらの課題を解決するのが、キャンセル料の請求・回収業務を自動化したデジタルツール「Payn(以下、ペイン)」だ。ペインを提供するPayn代表取締役CEOの山下恭平氏と、傘下の運営ホテルにペインを導入しているコアグローバルマネジメントのレベニュー・マーケティング執行役員、堀口洋明氏にキャンセル料に関する課題やペインの活用策などを語り合っていただいた。(司会=観光経済新聞企画推進部長 兼 kankokeizai.com編集長 江口英一)

 ――「ペイン(Payn)」は具体的にどのようなサービスですか。

 山下 旅館・ホテルや飲食店など、予約が発生し、キャンセルポリシーが規定されている業態の方々にご利用いただけるサービスです。キャンセル料の請求、回収業務を自動化できるデジタル請求ツールがペインです。

 例えば、ホテルに予約が入り、その後キャンセル料がかかる時期になってからその予約がキャンセルとなった場合、事前カード決済や旅行会社経由でない場合は、ホテル側にはキャンセル料の請求業務が発生します。電話連絡をしたり、請求書を送ったりしなければなりません。払ってくださらない方もいますし、怒り出す方もいるようです。キャンセル料の請求・回収業務は、宿泊施設にとって手間もストレスもかかる仕事なのです。ペインではこの一連の作業を自動化し、DXで宿泊施設の生産性向上に寄与いたします。

 ――サービスのローンチ(提供開始)はいつからですか。

 山下 ペインのリリースは2022年10月です。宿泊施設を中心に多くの施設さまに導入いただけています。「簡単に請求できて助かっている」「今までよりも回収できている」などうれしい声をいただいております。

 ――山下さんは、宿泊予約の売買サービス「キャンセル(Cansell)」を以前起業され、倒産を経て、今度はペインを創業されました。宿泊キャンセルに対する問題意識をずっとお持ちだったのですね。

 山下 「キャンセル」は、せっかく予約したのに行けなくなってしまった宿の予約の権利を、他の方に譲ることができるサービスで、2016年9月に始めました。消費者側の課題を解決するために開始したサービスでしたが、宿泊施設の方々からも「良いサービスだね」というご評価をいただくことができました。コロナ禍もあって結局失敗してしまったのですけどね…。キャンセル社をやっているときに宿泊施設の方々とお話をする機会がたくさんありまして、その時初めて「ノーショー」という言葉を知りました。「ノーショーのお客さんに電話したら逆にクレームを言われた」とか、「キャンセル料って実際はなかなか回収できないんだよね」とか、宿泊キャンセルに関するさまざまな問題、悩みを教えていただきました。そして、消費者だけでなく事業者側キャンセルに関する課題も解決できたらと思ったのです。そこがペインの原点になっています。

 ――ペインはキャンセル料デジタル請求ツールですが、オンライン予約であることが前提ですか。

 山下 予約のチャネルは問いません。予約システムを使ったオンライン予約でも、メール予約でも、電話予約でも大丈夫です。ただ、電話予約の場合は宿やお店のキャンセルポリシーを予約者にきちんと伝えているかがポイントになります。予約者のメールアドレスか携帯電話、もしくは住所が分かっていれば、ペインの仕組みを使ってキャンセル料の請求が可能です。

 ――ユーザーの大半が宿泊施設ということですが、大規模施設が多いのですか。

 山下 ビジネスホテル、リゾートホテル、小規模旅館など施設規模を問わずご導入をいただいています。ペインは初期費用無料、月額費用無料でお使いいただけます。ノーリスクでご導入いただけて、キャンセル料の回収に成功した場合にのみ手数料が発生する仕組みです。

 ――コアグローバルマネジメントは、クインテッサ、ヒューイットなどのブランドで全国22ホテルを運営されています。ペインはいつ導入されたのですか。

 堀口 2023年6月に導入しました。キャンセル料への対応は宿泊業界全体の重要な問題だと思います。キャンセルの発生自体を防ぐことは難しいですが、キャンセル料が発生した場合に、それを規定通りお支払いいただくことが非常に重要です。コロナ禍直前の2018~19年の頃、全国的な傾向としてホテルのキャンセル率が50%近くまで上がっていました。同時期、東京都心部のホテルの直前予約が減っていて、キャンセル分が直前予約分を上回ってしまったことがありました。これは、ホテルの生産性に大きく関わる事態です。キャンセル料はきちんとお支払いいただくべきだと改めて強く感じました。

 ――ペイン導入以前のキャンセル料請求業務はどのようにされていたのですか。

 堀口 各ホテルの現場に任せていましたので、回収率はまちまちでした。当ホテルチェーンに限らず、業界全体が同様の傾向にあるのではないかと思います。現在は18ホテルにペインを導入し、ペインを使ったキャンセル料の請求・回収業務は本社で一括して行っています。ペインのシステムは本当に簡単で使いやすく設計されています。請求先と直接話すこともありません。そのため担当しているスタッフは1名です。現場の負担も減りましたし、回収率の見える化もできました。3月までに全ホテルに導入いたします。

 ――ペインの良さはどこにありますか。

 堀口 キャンセル料の発生に対して、何もしなければ入らない売り上げが、ペインを使うことで入ってきます。キャンセル処理は、そもそもお金を生まない業務なわけですが、請求業務が自動化されていますので、スタッフの業務負担を減らすことができます。スタッフは精神的負担からも解放されます。これらは現場の生産性向上に直結します。費用対効果は抜群だと思います。導入しない理由はないのではないでしょうか。

 ――宿泊業界全体で、キャンセル料はきちんと請求、回収するものだという流れになると良いですね。

 堀口 直前でキャンセルをした場合は必ずキャンセル料を支払わなければならない。業界全体で取り組むことで、そういったマナー、常識を世の中に醸成していければ素晴らしいと思います。

 ――ペインは特許をお持ちだとか。

 山下 ペインをPMS(ホテルシステム)やサイトコントローラーと連携させて、シームレスに請求業務を行うことができる仕組みの特許を2023年10月に取得しました。PMSにはキャンセルデータが蓄積されています。システム連携することでキャンセルになった予約データをペインに再入力する必要がなくなります。現在、各PMS、各サイトコントローラーとシステム連携の打ち合わせを急ピッチで進めている最中です。なるべく早く多くのシステムと連携したいと思っています。

 ――スタートアップの起業家は皆さん、とにかく事業展開のスピードが速いですね。今後のさらなる展開の構想は。

 山下 先ほど堀口さんがおっしゃった通りで、業界全体できちんとキャンセル料を請求するような流れをつくりたいです。航空便予約のキャンセル料は皆さん必ず支払いますよね。宿泊予約もそうなってほしい。ただ、地の果てまで追いかけて回収するというサービスは目指していません。悪質なノーショーはごく一部の話であって、実際はやむを得ない理由でキャンセルされる方が多い。宿泊施設側も別の機会にぜひ訪れていただきたいと思っている。すでにペインに実装しているのですが、ルール通りにキャンセル料を支払った方に対して、次回使えるクーポンを提供する機能があります。現在の使用イメージは1万円のキャンセル料に対して2千円分とかですが、将来的には支払った金額以上のクーポンや特典がもらえるような仕組みにしていきたいと考えています。贈られた側は驚くでしょうし、絶対訪れますよね。キャンセル料請求という一見ネガティブな接点が、ロイヤルカスタマー化できるチャンスに変わります。業務効率化に加えて、宿泊施設の新しい価値を創るお手伝いをずっと続けていくつもりです。

 

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