「地産地食」の取組
観光経済新聞、塗料報知、農村ニュース、ハウジング・トリビューンの4紙誌は、2022年共同キャンペーン「地域から元気を 地方創生が生み出す未来」を展開しています。今、各地で芽吹いている地域活性化の動きを、観光業、農業、住宅・建設業などの視点でレポートします。
神山町で農業を通じた地域の活性化に取り組んでいるのが「株式会社フードハブ・プロジェクト」(共同代表取締役・白桃薫氏〈農業長〉、真鍋太一氏〈支配人〉)だ。同社共同代表取締役の白桃氏に地域の現状や同社の活性化に向けた取り組み、将来の展望について取材した。
フードハブ・プロジェクトは、2015年に開かれた神山町地方創生戦略を考えるワーキンググループでの話し合いをもとに立ち上げられた組織。当時、町役場に勤めていた白桃氏と町外から移住した真鍋氏が、地域内のさまざまな人の助言をもとに同社の基本構想をまとめ、2016年4月に設立。設立当初は7人からのスタートだったが現在はパート・アルバイトも含め31人が所属するまで拡大。その多くが移住者で、町内出身は白桃氏と役員として農業指導などを行う白桃氏の父親・茂氏の2人のみ。同社の存在が地域の雇用創出につながり、地域を盛り上げる原動力の一つともなっている。
農業生産については、現在4.5ヘクタールの経営面積で米、麦、ニンジン、スダチのほか施設で軟弱野菜を栽培。合計では、30品目という多品目栽培を行っている。一時期は「地域の食を豊かにしたい」との思いから300品目まで手を広げていたというが、経済合理性も考え現在の品目に落ち着いたという。
同社では、理念として「地産地食」(地域の中でモノが循環する)を掲げさまざまな取り組みを進めている。特に地域活性化に向けては「ブランディングして『外貨』を稼ぐため、結果として『地元の人は食べないけど、知名度が高く』なっている場合もある。それも一つの方法だとは思うが、われわれ農家は目の前で食べてくれることが喜びであり、それがなければモチベーションが続いていかないと思う」とした上で「現在の日本は外に目を向けがちで、地域を深掘りする人は少ない。しかし、地域を深掘りすることが地域の良さにより磨きをかけることにつながり、結果として地域に人を呼び込むチカラともなるのではないかと考えている」と語る。
こうした思いから単に農業生産を行うだけでなく、自らが生産した食材を使った食堂「かま屋」、地域で作られたパンや加工品などを販売する「かまパン&ストア」の運営も行っている。「われわれの地域では家庭菜園をやっている人も多く、生鮮食品を買うことが少ない。そうした中でも地域のものを食べてもらうためのアイデアがこうした6次産業化への取り組み」と白桃氏。
同社が生産した農産物は設立当初は、前述の食堂や加工などにのみ供給していた。しかし、規模拡大や独立する担い手も出てきたことから町外への販売も開始した。独立した担い手は、農業次世代人材投資資金(準備型)を活用して2人、それ以外にも1人。このほか現在、同社で3人が研修中だといい、担い手を増やす取り組みは少しずつではあるが成果が出てきているようだ。
今後については、現状の取り組みをコツコツと続けること、そしてさらに山間地域の農地の活用を進めたいと語る。「われわれが現在手掛けているのは機械を入れることができ比較的耕作のしやすい中間農業地域だ。一方で、一つの農地が1アール、2アールと非常に小さい山間農業地域については、残念ながら手をつけられていない。こうしたところでは専業農家としてやっていくことは難しいと思う。ここに兼業農家を導いていきたい」という。
農業生産の現場(写真提供=フードハブ・プロジェクト)