【専門紙誌の視点で見る阪神・淡路大震災からの復興】記録を後進に伝える 最後は人の力で安全確保 東京交通新聞


大震災で崩壊した阪神電鉄の石屋川車庫。線路が大きくうねり、ゆがんだ(1995年2月6日、神戸市)

 大阪と神戸を海沿いに結ぶ阪神電車。1995年1月17日の阪神・淡路大震災では、線路や高架橋、車両が甚大な被害を受け、全線再開に160日を要した。あれから30年。阪神電気鉄道(大阪市、久須勇介社長)は、高架橋の耐震補強や橋桁の落下防止の強化、自然災害を想定した総合対応訓練、災害に強い鉄道を目指す「防災の基本方針」の策定など、防災・減災対策に注力してきた。

 当時、被災した車両は、全体の3分の1に当たる126両に及んだ。そのうちの41両が、全壊のため廃車となった。高架橋の崩壊・損傷は約2キロメートルにわたった。特に西灘・御影(みかげ)エリアの損害が大きく、陸橋が8カ所で落下し、3駅が崩壊した。西宮変電所が全壊し、電気ケーブルは断絶。運転士や駅係員を養成する教習所も壊された。

 一方で、すぐさま、路線の復旧に心血を注ぎ、翌18日に梅田―甲子園間で運転再開。その後、開通区間を三宮―高速神戸、西灘―岩屋などに広げた。

 不通区間には代替バスを走らせ、移動の足を支えた。1月23日に三宮―甲子園で運行開始。全国各地から応援車両が駆けつけた。28日に国道43号にバス専用レーンが設けられたことに合わせ、三宮―青木(おおぎ)でノンストップのバスを追加。リュックを背負い、被災した家族の元に向かう人たちの利用が目立った。鉄道の復旧に伴って代替区間は徐々に少なくなり、6月25日に役目を終えた。

 阪神電鉄はこの4月、社員向けの研修施設「安全繋心(けいしん)室」を本社に開設した。他社例を含む重大事故をパネル展示で紹介している。震災関係も取り上げ、阪神・淡路大震災を経験した運転士や復旧作業に関わった社員の声を載せている。鉄道部門の全社員を対象に、1年から1年半をかけてここで研修する計画を立てている。

 ◇

 被災直後の神戸市・御影地区の留置線(列車を止めておくための線路)。阪神電鉄に入社して1年目の駅係員、飯塚研一さんは、上司と2人、懐中電灯の光を頼りに、湾曲、破断したレールの側を歩いた。寒さの中で連日、見回りに出ていた。

 「地面は隆起し、レールは宙に浮かび、足を踏み外したらそのまま落ちていきそうで怖かった。傾いた電車のすぐ横で建物が崩れ、『助けてくれ』と声が聞こえた。誰もが、どうにか生きようとしていた」
飯塚さんは現在、経営企画室で広報を担当する。当時を思い起こしながら、「大きな災害はいつ来るか分からない。鉄道会社にとって、お客を安全に運ぶ価値は何物にも代えられない。災害が起きたとき、いかに早く乗客を安全な場所に避難させられるかにかかっている」と話す。

 「最後はやはり、人だと思う。ハード面がいくら整っても、『人を動かす、動いてもらう』ことができなければ、安全は守られない。震災や事故の記憶は次第に薄れるもの。現場の人間は入れ替わり、当時を知る人はいなくなる。だからこそ、しっかりとした物を記録し、後進に伝えていくことが重要になる」と力を込める。


大震災で崩壊した阪神電鉄の石屋川車庫。線路が大きくうねり、ゆがんだ(1995年2月6日、神戸市)

 
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