【専門紙誌5社共同企画】各紙誌の視点で見る東日本大震災からの復興 一時帰宅をサポート 東京交通新聞


防護服に身を包み、家々を回った(2011年5月)

復興へバス・タクシーが貢献

 復興に歩む東日本大震災被災地の福島。来年3月で発災から14年目を迎える中、福島第1原子力発電所の事故の影響を受けた沿岸部の7市町村(南相馬市、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)の一部は「帰還困難区域」として、いまだ立ち入りが制限されている。地元大手のいわきタクシーグループ(福島県いわき市、門馬成美代表=前福島県タクシー協会副会長・いわき支部長)は、避難住民の一時帰宅をサポートし、水素燃料電池車(FCV)を積極的に導入するなど、地域の復興・創生に貢献している。

 同グループはいわき市を中心に、タクシー、観光バスなどの運輸業を営む。2011年3月11日。巨大地震による津波は、小名浜港から500メートルの位置にある本社の目前まで迫ったが、幸いにして難を逃れた。営業車も無事だった。

 第1原発の水素爆発は翌日に起きた。他社は休業を余儀なくされていた。「避難者がいっぱいいた。公共交通機関として動かないわけにはいかなかった。ドライバーも会社の指示に従ってくれた」と門馬代表。

 5月に入り、「警戒区域」(原発から半径20キロ以内)への一時帰宅が認められた。政府側が日本バス協会の車両提供リストを基に80台を用意し、いわきタクシーグループが運転業務を専属で引き受けた。

 門馬代表は「他のバス会社は、労働組合の反対もあり、『車は出せるが、人は出せない』と。われわれがやらなかったら、国や政府が非難を浴びてしまう。東京電力との調整に当たっていた息子から、『どうしますか』と問われ、『やれ』とだけ言った。『自宅に大事な物を置いてきた』『お墓参りに行きたい』。そんな人たちがいる。何とか役に立ちたかった」と述懐する。

 「5月3日にトライアルをして、1週間後に見切り発車した。契約書も交わさなかった。一日も早くやらなければならなかった」。常磐自動車道や沿岸を走る国道6号線は通行止め。内陸部から、う回する形で現地に入った。

 原発がある大熊町と隣接する川内村が最初だった。90人ほどの住民が参加し、6台を運行。12人のドライバーは住民と共に放射線防護服に身を包み、家々を回った。帰宅時間は2時間に限られ、行方不明にならないよう全員にトランシーバーが手渡された。

 門馬代表は当日午前3時、自社で弁当や飲み物の詰め込みをし、自らハンドルも握った。「放射線量は高かったが、みんな、恐れずにやってくれた」。住民の数は多いときで1日120人。毎日走り続けた。今も週5日のペースで手がけている。

 浪江町では現在、道の駅や、太陽光発電を利用した世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」ができ、にぎわいを見せている。いわきタクシーグループはトヨタのFCV「MIRAI(ミライ)」を10台導入。第1原発のバスドライバーとして働く社員の通勤用に使用しており、カーボンニュートラル(炭素中立化)にも貢献する。

(東京交通新聞)

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