先月、観光庁委託事業「ユニバーサルツーリズム促進事業 バリアフリー旅行相談窓口設置説明会」に招かれて長野県白馬村で講演をしてきました。
いよいよ来年に迫った東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、ユニバーサルデザインの街づくりや訪日外国人観光客の受け入れ環境整備を進めながら、バリアフリー情報を発信するための事業です。
長野県や白馬村の行政の方々、ホテルや旅館の皆さんが参加されましたので、私は施設を大改修しなくてもお客さまに喜んでいただけるような心掛けと便利な備品について、80枚のスライドを用いながら話しました。とかく、「バリアフリー」と聞くと難しく考える方がいるようですが、さほどお金をかけずとも、すぐに実践できる策はたくさんあるんですよ。
私個人の最大の収穫は、現場で汗を流す皆さんにお会いできたことです。
白馬スポーツ自然振興協会の理事長であり、犬と一緒に泊まれる「カナディアンヴィレッジ」のオーナーである国本祥治さんが、この事業で採択された地域の責任者です。国本さんは、白馬ゆえの豊かな自然を生かし、発達障害のお子さんとそのご家族の受け入れにも取り組まれています。犬と触れあえることもセラピーだそうです。
諏訪から参加してくださったのは、「ユニバーサル・サポートすわ」の皆さん。諏訪を拠点に福祉と観光と街づくりを掛け合わせた活動をしています。12月3日には「ユニバーサル・ツーリズム推進フォーラムinすわ」が開催され、私はここでも話をする機会をいただきました。そして「バリアフリー旅行相談窓口設置説明会」の事務局を担うのは東京トラベルパートナーズ。ここは高齢者向けの旅行サービスや介護事業者と連携し、入所されている方々の一時外出や日帰り旅のお手伝いをされています。白馬には栗原茂行社長が来られました。
この晩は全旅連のシルバースター部会長をされている中村実彦さんの宿「ホテル五龍館」に宿を取りました。この日1日の出会いを振り返りながら温泉に入りました。白馬八方温泉はpH11を超える強アルカリのお湯です。
お湯に体を沈めると、とぷんっと音が聞こえてきそうなとろみのある温泉。お湯が全身を包み込んでくれるかのようなまろやかさがあります。
翌日は、源泉のままの状態で湯船に注がれているという共同浴場「八方の湯」にも立ち寄りました。お湯を擦り合わせると、とろっとした後にキュッと軋みます。強アルカリ特有の作用である肌を乳化させた時のとろみであり、軋みは洗浄された証しです。比類を見ないお湯に、温泉マニアの血が騒ぎます。
実は、この白馬八方温泉には大きな期待がかかっています。東京工業大学地球生命研究所が八方温泉について「地球初期の生命誕生のメカニズムを解き明かすことにつながる」と、欧州の科学雑誌「アース・アンド・プラネタリー・サイエンス・レターズ(Earth and Planetary Science Letters)」に論文を掲載したのが2014年1月。その時のプレスリリースによると、「この温泉水は蛇紋岩と呼ばれる特殊な岩石と水が反応することによってできた強いアルカリ性の温泉で、かつ水素濃度が高い。このような温泉は、現在はまれであるが、生命誕生前の初期地球ではありふれた温泉環境であったと考えられている」(リリースから引用)。
温泉が生命の誕生につながっている可能性が示されていました。こんな奇跡の温泉―。
体の不自由な方や、人生を頑張ってこられた高齢者にも、誰もが楽しめる環境が整ってほしいですね。
(温泉エッセイスト)