こんなにも深刻な問題になるとは―。新型コロナウイルスは日本中を委縮させ、消費を鈍らせています。読者の皆さんにとって、どれほど大きな痛手となるかを想像するだけで、胸が痛みます。
その中で活路を見いだそうと、手探りする宿泊業の方もいますので具体例をご紹介します。
新潟県松之山温泉ひなの宿ちとせは「仮想温泉」と題して、エントランスからフロントロビー、客室、露天風呂、食事処など館内をストリートビューで公開していました。見ていると、確かにちとせに行ったような気分になりましたし、身近にさせてくれました。
神奈川県箱根の一の湯さんは「まじでコロナウイルス勘弁してくださいプラン」と銘打ち、3900円で宿泊できるプランを出すと瞬く間に完売。ネーミングの面白さは、テレビのニュース番組でも取り上げられたほど。そもそも、一の湯グループは2020年で創業390年。それを記念して年間39の企画を予定していたそうです。その中で学生応援企画として1泊3900円がありました。そのプランを活用しながらネーミングの妙で話題となった事例です。ユニークに乗り切ろうとする知恵を感じます。
星野リゾートも、3月5日~5月31日の期間、「大人は仕事、子どもは遊ぶ、長期滞在プラン」を実施中。託児所や子ども向けのアクティビティが充実しており、Wi―Fi完備のワーキングスペースが設けられているリゾナーレで、リモートワークを推進するプランです。
また、同社は「おこもり」をキーワードにした、枝垂れ桜が咲くテラスを貸し切るプランを星のや京都で出しました。
一方で、神奈川県箱根の花扇さんは「全スタッフ・内定者・家族の皆様へ」と題して、働いてくれることへの感謝、従業員の家族への感謝をSNSに投稿しました。新型コロナウイルスが話題になり始めてからも外国人のお客さまを迎え心配だっただろうに、接客を頑張ってくれてありがとう。できることをしましょう。知恵を出し、前に進みましょう。「今しかできないこと」がきっとあります。と社員へのメッセージに加え、内定者を取り消すことはないと明記。末尾には「来年の社員旅行はハワイかな? よし、頑張ろう」という爽やかさ。花扇は昨年の台風被害からようやく復興されたばかりの苦しい時期であると想像しますが、社員一同で乗り越えようとする気概に感服です。
旧知の温泉療法医に、「今、温泉旅行に出かけていいかどうか」を尋ねてみました。
「温泉は免疫力を高め、体調を整えます。清潔にすることでウイルスに対する抵抗力が増しますので、この時期には人混みを避けつつ、温泉でゆっくりすることが何よりのウイルス対策ではないかと思います」と語っておられました。
ちなみに各地の温泉地や観光地の皆さんに聞いてみると、若い20代の旅人は少なくないようです。若者が行きたいと思う企画も一つの打開策かもしれません。
ここからは、全く個人的な語りとなります。コロナのまん延によって、私は仕事の中止や延期が相次ぎました。フリーランスの身として大打撃です。熱意をもって取り組んできたフォーラムや講演会の中止や延期は、正直、こたえました。でもなんとか、気持ちを切り替えたい、そんなときに真っ先に思い浮かんだのは露天風呂でした。閉塞(へいそく)感の中で、息詰まりそうな毎日。あぁ~裸になって自然に溶け込みたい。こんなタイミングだからこそ、温泉地へ行き、露天風呂に入りたい。これが私の率直な気持ちです。
そう感じている人もきっと多いような気がするのです。
(温泉エッセイスト)