移動がしにくい時期が続いていますが、私は電話やオンライン、SNSのメッセージ機能などで、観光地や旅館のご主人や女将に連絡を取らせていただきました。その中である女将の言葉が心に残りました。
「私にとってお客さまが全てだったと気付きました。私の時間はお客さまのためにあったんです。休館中は、常連さんのために毎日マスクを作っては、発送していました。いまは暑くならないような夏物のマスクを作っています」
この女将だけでなく、皆さんの口から出てくる言葉は「お客さま」一色でした。前回ご紹介したオンライン商品も、アイデアの根底には「お客さまにおもてなしができない間に、どうしたらお客さまが喜んでくれるのか」というお客さんへの愛情がいっぱいだったのです。
同時に取材をしていく中で、その旅館がどれだけ顧客を持つのか、またお客さんからどれだけ愛されていたのかがはっきりとしました。
応援してくれるお客さんの存在が心の支え。「また行くよ!」というお客さんの声をエネルギーに変えて、宿泊業界の皆さんは前向きな気持ちを保っておられました。
宿泊業の皆さんにとって、ご商売でありながら、どれだけお客さんが好きなんだろうと、傍らから見ていた私はそんなふうに感じていました。
恋愛と同じですね。それなら自分の好みの人(宿に適したお客さん)と、それを求めるお客さんとで、相思相愛になれたらいいですね。要は、マッチングが何より大事ということです。
以前にも本連載で記したように、「ファンビジネス」をより意識しなければならない時代が到来したのです。
素泊まり歓迎なのか、温泉の良さを求めてくる湯治客歓迎の宿なのか、高齢者歓迎のバリアフリーの宿なのか、大学生等の若者が宿泊しやすい安価な宿なのか。赤ちゃん連れのママさん歓迎の宿もニーズは高いでしょう。
もっと具体的に、どんなお客さんに来ていただきたい宿なのかを積極的に発信するべきです。個性を発揮しない限りは、運命の人(お客さん)には出会えません。「どこに泊まっても同じ」宿の時代はもう続かないのです。
幸い、Go Toキャンペーンは、これまでのようにOTAを通さずとも、旅館でも直接販売ができます。これを好機とし、思い切って旅館の特色を打ち出してはいかがでしょうか。
そして私がいま心配していることがあります。緊急事態宣言中に強固に観光客を拒んだ観光地は少なくないと思います。コロナ感染拡大を防ぐには仕方ないことではありましたが、その拒絶の文言は強く記憶に残っています。しかし、これからは観光に来ていただきたいと、誘うタイミングです。強固に拒んだ地域ほど、なかなかその誘い方が難しいだろうと推測します。ダジャレでもいいので、ユーモアを交えた素直な文言で伝えるのがよいのではないかと思います。
喫緊の問題といえば、お客さんに安心して安全にくつろいでもらえるような衛生管理でしょうか。取材をしてみると、「お客さんと接するフロントスタッフはフェースシールドを着用」「飛沫(ひまつ)感染防止のパネルの設置」「設備や備品の配置を変えソーシャルディスタンスを保つ」「お客さんにも注意喚起」。これらが基本路線のようです。3密対策を動画にまとめたり、大浴場の混雑状況が一目で分かるアプリを開発したりと、独自に試行錯誤している旅館もあります。来週、現場を取材してきます。
(温泉エッセイスト)