令和2年7月の豪雨災害により、お亡くなりになられた方のご冥福と被害に遭われた皆さまへお見舞いを申し上げます。コロナ禍の中でようやく立ち上がろうという矢先に、これだけの大きな自然災害が起きたことに心が痛みます。
そして、いよいよGo Toキャンペーンが始まります。7月22日という開始時期は、この週の4連休にも適応できるための日程です。夏休みに向けて、そしてこれまで旅行欲を抑えてきた、たくさんのお客さまが来て下さるでしょう。
いま観光業界、宿泊業界の皆さんからお話を聞かせていただきますと、新たな道や未来を模索しておられるのが分かります。そこでそんな皆さんに、未来を考える際のヒントにしていただきたく、また旅の可能性をお伝えしたく、各界の著名人の方から知恵をいただくシリーズ企画を本紙でお届けします。
先週号の第1回では、脳科学者の茂木健一郎さんに登場していただきました。
茂木さんと知り合ってからもう10年近くたつのですが、印象的だったのは、初めてお会いした時に、私の長年の疑問をたちどころに答えて下さったことです。
私は、たいがいお風呂の中でアイデアや企画を思いつきます。また取材で得た情報や体験した出来事が、一つのストーリーとして紡ぎ出せる場所もお風呂です。私はどれほどの企画や原稿の構成を入浴中に思いついたことでしょう。
裸になり、体を洗い、温泉に入る。う~と呻(うめ)きながら、心も体も温泉にゆだねる。裸で無防備なはずなのに、お湯に包まれているときの不思議な安心感。なんだろう、あの開放感ったら。なぜ、お風呂はこんなにも発想を豊かにするのか?
そんな疑問をぶつけたら、茂木さんは、
「お風呂に入ったりして、いわゆる感覚遮断の状態にするのがとても良いことなんです。
要するに外からの刺激に注意を向けなくてもいい状態になると、脳のデフォルト・モード・ネットワークが活動し始めてメンテナンス作業を始めるんです。このときに、気になってたこととか、ちょっと整理できてなかったことが浮かび上がってきたり、整理できたりするんです」と明快なお答え。なるほど!
これを私流に言えば「頭の中が空っぽになる瞬間」です。頭を空っぽにすると、たくさんのことが思い浮かんでくる。お風呂は思考の場に最も適しているわけですね。
かつて昭和時代、文豪たちは温泉地を訪ね、宿で作品を書きました。文豪同士で宿にやって来てたくさんの会話を重ね、温泉宿がサロンとなったこともありました。令和でいえば、たくさんのクリエーターに、創作の場として温泉旅館が使われるといいなと思います。
他にも温泉に入る効能について、茂木さんの名言はたくさんあります。茂木さんと私の対談本「お風呂と脳のいい話」から少しだけ抜粋します。
「露天風呂ってファーストキスがいっぱいあるみたいな感じかな」
「情報自体は本当にどこでも手に入るんですけれど、何を求めるのかっていうと、結局ライブ感であって、温泉ってその最たるものかなって思うんですよ」
「温泉とか食べ物とか日本の競争力の強いところもあって、明らかに温泉って国際競争力的に見て、あのくつろぎの文化ってすごいじゃないですか。そういうところを冷静に日本人が見るべきです」
こうしたお風呂に入ることの効果効能を、コロナによる心身の疲れを感じて宿を訪れる旅をしているお客さんに話してみてください。
(温泉エッセイスト)