オーストリアには各地に温泉が湧き、音楽家が愛した温泉もあれば、前回ご紹介したハプスブルク家ゆかりの温泉もあります。今回はウィーンから気軽に日帰りできる温泉を記します。
日帰り入浴施設「テルメ・ウィーン」は2011年と2014年にヨーロッパ・ヘルス&スパ・アワードのベスト温泉部門で金賞に輝いた注目の施設です。
ウィーン国立歌劇団オペラ座前の地下鉄の駅から電車で15分。オーバーラー駅に降り立ち、ガラス張りの直結廊下で施設に向かうと、まるで戦艦のような…、巨大な建物が目に入ります。エントランスで入館手続き。鍵付きの個室着替え所と3時間入浴のセットで22ユーロ。
水着に着替えて、温泉ゾーンへと行くと、大小九つのプールがありました。広い敷地にプールが点在しているので、迷子になりながら全体を歩いてみました。さすが、注目される施設だけあり、天井のシンメトリーやプールのタイル張りなど、日本の温泉施設ではあまり見かけない洗練された色彩でデザインされていました。瞑想(めいそう)ゾーンや勢いよく温泉が流れるプールもあります。ジャンプ台やウオータースライダーもあるので楽しみ方は豊富。日本はゆっくりと湯に浸かるのを良しとするのなら、ここはよりよく遊べることに重きを置いているように見えます。
最も印象的だったのが子どもの姿が多いこと。それも赤ちゃん連れの若いママをたくさん見かけました。子ども用のプールゾーンが広く、全体の4分の1は子どもが楽しめるスペースです。子どもたちは両腕に浮輪を付けて遊び、それを大人たちが優しい眼差しで見つめるほほ笑ましい光景がありました。
加えて温泉プールの3倍から4倍ほどはある広いスペースにいくつものデッキチェアが置かれてあります。私が訪ねたのは平日の広間だったこともあり、ぐずる赤ちゃんをあやしながらママさんたちも気兼ねなく寛いでいました。
泉質は硫黄泉のようですが、ほとんど匂いはしませんでした。
もちろん大人も楽しめます。プール全体を見渡すと、大人たちが等間幅にプールの縁に立っていたりします。近寄ってみると、水流が体に当たる場所がプールの縁に示されています。それぞれ当たるのは足首、ふくらはぎ、膝、太もも、腰、背中、肩。全てを回れば、全身マッサージしたことになります。
レストランは水着の上にバスローブや体を隠す布を羽織れば、そのまま入れました。
3時間ほどで一通りのプールを体験し、施設を出る頃は、空腹でお腹が鳴っていました。日本では温泉は癒やされるものですが、ウィーンではよく遊んだなぁという心地いい疲れが体を覆う体験でした。
(温泉エッセイスト)