【山崎まゆみの「ちょっと よろしいですか」53】マッキー牧元さんと旅館料理を考えてみた 温泉エッセイスト 山崎まゆみ


 私がコーディネーターを務める「アフターコロナ・ウィズコロナ時代の観光」対談が今月で5回目となりました。

 旅館オーナーの皆さんはいつも料理の勉強のためにさまざまなレストランを食べ歩くとよく聞きます。いい料理人を探している様子も見受けられます。そこで今回は食を専門とする文筆家でもあり、生産者や料理人とのつながりも強いマッキー牧元さんにご登場いただきました。

 私が「先日、ある旅行者の『旅館の料理の量が多すぎる』というツイッター投稿が話題になりました」と口火を切ると、「量は人によって感じ方が違うから、私が思う旅館料理へのリクエストをテーマに話しましょう」と、軽快なテンポで語って下さいました。その内容は実に具体的! ぜひ対談をご覧ください。

 マッキーさんとのお話の中で最も心に残ったのは、いま和食の料理人を目指す人が少ないということ。若者の多くはパティシエを希望し、あとはイタリアンやフレンチなど。思えばここ数年、メディアで話題になる料理人は和食よりも洋菓子やイタリアンやフレンチだったかもしれません。もちろん和食のスターもいるでしょうが、私がすぐに顔を思い浮かべられる若手の料理人は残念ながらいません。

 ただ私は先日、城崎温泉「さんぽう西村屋 本店」で頂いた夕食の風景を思い出しました。

 西村屋さんが2019年にオープンした「さんぽう西村屋 本店」は、一般のお客だけでなく宿泊客も夕食をいただける和食ダイニングで、お部屋で味わう会席料理とは違った体験ができます。

 店内の中央にいろりを構え、カウンター越しにその調理風景が見えます。そして料理人が食材を説明しながら料理を出してくれるのです。おいしさとありがたさがひとしおでした。

 和牛のルーツとも呼ばれる但馬牛の産地である兵庫県香美町小代(おじろ)が故郷の中安伸一料理長は「自然農法の地野菜や在来種を使い、食材を余すところなく活用する」、そんなお考えをお持ちです。そうした料理長のパーソナリティーや料理への考え方を知ることで身近に感じました。また、厨房に立つ料理人の背筋が伸びた姿のなんと美しいこと。敬愛の念すら抱きました。

 旅館料理のこれからを考える際に、実務的な策はマッキーさんの知恵をお借りしましたが、私からは旅館の料理長のキャラクターを際立たせたメニューや、お客さんが料理人のことを知る機会を作ってみてはいかがでしょうか、とご提案します。

 そうやって和食の料理人の人となりを知らしめることで、お客さんが旅館を選ぶ参考になるでしょうし、もしかしたら旅館で腕を振るう料理人に憧れる人が増えるかもしれません。

 最後にマッキーさんが編集顧問を務める「味の手帖」を紹介します。昭和43年から刊行されている、上質な食文化を追求する、食通のための月刊誌です。美食家、料理人、財界人や文化人の皆さんの対談やエッセイで構成されています。せんえつながら私も「おいしいひとり旅」という連載で参加して、旅先で頂いたおいしい食のエピソードをつづっています。また「味の手帖」には、日本を代表する東京の極上店がその名を連ねる名店会もあります。食をめぐる面白くてユニークな言葉を読めば、旅館料理のヒントが見つかるかもしれませんよ。一度、お手にとってみてください。

(温泉エッセイスト)

 
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