何度も繰り返すが、乗り合いバス事業者は地域独占的に国から事業免許を受け、経営を保護される代わりに地域交通の維持に責任を負ってきた。さらに、流通業や都市・観光開発なども含めた複合企業体であり、まさに地域経済と一体化している。
地域全体で人口が増え経済が成長している間はよかったが、経済成長の終焉によって“いい時代”は終わった。本業たる地域の路線バス事業においては、モータリゼーション進展によるバス離れが追撃した。
地域独占的な公益企業は、売り上げ(あるいは需要)を、いわば「所与の条件(定数)」と捉えがちだ。一般企業なら競争によって競合から市場を奪うことや、新商品で新しい市場を創造することが日常的であるが、バス事業者にはそのような経験があまりなかった。
ゆえに、鉄道や航空との競合があるとはいえ、高速バスのサービスレベル(例えば車両などのハード面や接客などのソフト面)を改善し、あるいはマーケティングに注力して、売り上げを増やそうという動きはあまり見られなかった。
また、労働組合の存在感が大きく(それ自体は評価すべきことであるが)、新しい施策を導入するにあたっては労使間の調整に時間と手間もかかっていた。ましてや、高速バス路線のほとんどが共同運行である。何か営業施策を行おうとすれば、共同運行先との合意が必要になる。
そのため、全国に高速バス路線網が出来上がった1990年代以降、高速道路延伸開業に伴う新路線を除けば高速バス市場は無風。いやむしろコスト削減のため、サービスレベルを低下させる事例も見られた。
そのような流れの中で、2001年、中堅旅行会社であるオリオンツアーが、東京と大阪を結ぶ夜行バス商品を販売開始した(なお、その直前に、ある大手旅行会社が同様の商品を設定していたという説もある)。主体が旅行会社であってバス事業者でない点がポイントで、後に「高速ツアーバス」と呼ばれる事業モデルだ。
この新しいモデルはその後急成長し、バス業界を真っ二つに分けた大論争に発展する。
(高速バスマーケティング研究所代表)