それが、「楽天トラベル」の高速バス予約サービスへの参入である。
急成長していた予約サイト「旅の窓口」を買収するなどして宿泊予約の分野で成功を遂げていた同サイトは、宿に加えて足回り(交通機関)の予約サービスへの進出第1号として2005年7月、高速バス予約事業に参入することを発表した。
当時、ホテルに勤務していた筆者は、学生時代にバスターミナルでアルバイトをして以来の「バスマニア」でもあり、このニュースを伝えた「観光経済新聞」を読んで楽天への転職を決めた。
楽天トラベルの高速バス予約事業がローンチしたのは同年11月。筆者は、ホテルから予約サイトへ取引先間での転職となったためさまざまな方に厄介をおかけしたが、翌4月に楽天に移り、約半年後からは同事業の責任者を仰せつかった。
従って、筆者自身は同事業のスタートアップには直接立ち会えなかったが、事業開発チームとは連絡を取り合っていた。当初、楽天側は高速乗合バスと高速ツアーバス、その差を認識しておらず、バス協会や有名な大手バス事業者(つまりは高速乗合バス事業者)へも熱心に提携を働きかけていたようだ。
だが、当時、既存高速乗合バス事業者らはウェブによる販売促進に興味を示さず、楽天がたどり着いたのが、後発で小規模ながら貪欲な成長意欲を持っていた高速ツアーバス各社であった。
まずは、典型的な高速ツアーバス企画実施会社(つまり、スキーバス出身の中小旅行会社)の一つである西日本ツアーズ(現WILLER TRAVEL)と包括的な提携を行い、事業スキームを整えた上で、オリオンツアーら同様の旅行会社とも取り扱い(募集型企画旅行の受託販売)契約を結び、複数の会社の高速ツアーバスの予約サービスを開始した。
当初の取扱者数は10社程度、路線数も極めて限られていたが、巨大な会員組織を抱え、EC(電子商店街)事業から野球、金融と拡大を続けていた楽天グループのサイト上に登場したことは、高速ツアーバスがニッチ商品から脱却したことを意味していた。
(高速バスマーケティング研究所代表)