バス乗務員に対する人事評価制度の二つ目の課題は、導入が大手の乗合バス事業者に限られ、業界全体に幅広く広がっていない点である。
前号で述べたような限界はあるものの、同制度は業務の標準化のために有効であるし、何よりも真摯(しんし)に業務に取り組んでいる乗務員を確実に評価し、適切な処遇を実施するために必要不可欠である。しかし、多くの事業者にとって本格的な人事評価制度を導入するのはハードルが高すぎる。
同制度を導入するには、評価される乗務員自身から公平で透明だと感じてもらえるような制度設計が欠かせない。そのためには、人事専門のコンサルティング企業らに依頼し、業務内容や会社の戦略の調査を受けた上で独自の制度を提案してもらうことが多い。そのためのコストは相当なものになる。
さらに、乗合バス事業者は、労働組合がしっかりした活動を行っている場合が多いので、労組の理解を得て同制度を導入するには、十分な時間と努力が必要だ。
導入が終わっても、同制度を運用するにはさまざまなコストがかかる。まず、評価者(営業所長ら)が、同制度の趣旨を理解し公平で透明な評価を行う素養を持っていることが前提である上に、具体的な評価の手法を彼らに繰り返し教育する必要がある。
「添乗モニター制度」も、単に乗務員に緊張感を与えるためのツールとしてのみ活用するならともかく、人事評価に活用しようとすれば、全乗務員が平等に添乗調査を受けられるよう段取りする必要がある。そのためには、相当数のモニター調査員をアルバイトとして雇用したうえ、現場の運行管理者と調整しながら、調査員の添乗スケジュールを綿密に組むことが求められる。
これらのコストを負担できるのは、おのずと、事業規模が大きく、かつ十分な収益性を持つ、都市部の大手私鉄系事業者らに限定されてしまうのだ。
(高速バスマーケティング研究所代表)