筆者は1997年に大学を卒業し、都市ホテル運営企業に入社した(元来「バスマニア」であり、その後、バスの世界に移って現在に至る)。楽天トラベルの前身にあたる「旅の窓口」のサービス開始が96年であるから、ウェブ予約が急成長していた時期である。
同業者や旅館、旅行会社などの仲間と情報交換を兼ねて会食をすると、必ずと言って話題に上ったのは、近いうちにわが国のツーリズム産業が大きく変革するのではないか、とりわけ「旅行会社は不要になるのではないか」というテーマであった。
バブル崩壊を端緒にして職域旅行など「社会的旅行」の市場は急速に縮小していたし、個人の旅行は旅行者の成熟や自家用車普及により、パッケージツアーではお仕着せと感じられ、主にクルマで移動する自由旅行へとシフトが進んでいた。
おそらく、その頃、ツーリズム産業の関係者らが皆、頭の中にぼんやりと描いていた像を言葉にすると「マルチ・ダイナミック・パッケージ(マルチDP)」となるのではないか。
旅行者自身がウェブ上で旅程を組み、現地までの航空や鉄道(1次交通)、現地での移動(2次交通)、宿泊や観光などを一括して手配する「オーダーメイドのパッケージ旅行」である。
現地で体験や交流に重点を置いた着地型旅行商品を組み合わせれば、個人ごとの興味、関心に基づいた旅行を組み上げることができる。従来型の、総花的なパッケージツアーと比較し、よほど旅行者のニーズに合った、新しい時代の旅行のあり方だと感じられた。
バス業界から見ると、従来の(発地型)バスツアーの仕事は減少する半面、着地型ツアーの一部は依然として貸し切りバスが足として活用されるであろう。高速バスについては、一部の系統や便で、「パッケージの一部」になりうるよう商品性を観光客に特化させることができれば、新しい市場と出会えるに違いない、とそう考えていた。
今でも、その考えはおおむね変わってはいない。だが、現実を見ると、当時描いた未来図が実現するのはまだまだ先、だと思い知らされる。
(高速バスマーケティング研究所代表)