貸し切りバスを使うバスツアーは、いわば「別に旅行などしなくてもいい人を、いかに旅に連れ出すか」というビジネスである。その意味で「プッシュ型」モデルだ。
新聞広告や会報誌に紅葉など季節を象徴する風景や、おいしそうな料理の写真を並べる。格段、その地に思いが強くない人でも、行ってみたいという気分にさせる。逆に言うと、企画する旅行会社側も参加者側も、目的地への思いは決して強くはない。
旅行コースの内容は季節によってどんどん変わる。大河ドラマなどで注目を集めたデスティネーションも、来年度は消える。出発地は都心のターミナル駅のみならず、郊外の私鉄沿線やパーク&ライド駐車場が、日替わりで設定される。特定の出発地から、特定のコースが催行されるのは年に数日のみだが、次のシーズンには別のコースが設定される。
それに対して高速バスは、「移動する理由がある人に、いかに廉価に(または鉄道では乗り換えが必要な区間などにおいて、乗り換えが不要で快適に)利用してもらうか」というビジネスだ。バスツアーとは対照的に「プル型」モデルである。
許認可の関係もあり、路線設定を次々と変えるわけにはいかない。むしろ、何年、何十年と同じ区間を運行し続けることで、曜日や時間帯ごとの需要を把握でき、ダイヤ改正を重ねて運行内容は自ずと最適化される。
乗務員運用や車両運用も工夫を続け、コスト負担も最小化される。原則として365日を通して運行されるし、30分間隔など高頻度運行の路線も多いから、1便あたりの収益が大きくなくとも全体で見れば相当な規模となる。
大雑把に言えば、前者は狩猟民族的、後者は農耕民族的ビジネスである。損益分岐点を乗車率で示すと、前者は高めで、後者は低めだ。
だから、安定して毎日運行される高速バスに対し、特定の日に絞って催行され、かつ、季節や流行に合わせデスティネーションをどんどん変えていけるバスツアーと同じ乗車率を期待すること自体が無理な話なのである。が、見えている点は大きなアドバンテージと言える。
(高速バスマーケティング研究所代表)